所属芸人全組へのインタビューを終え、昨年でいったん幕を閉じた「シリーズ大宮セブン」だが、今年3月のコマンダンテ新加入を受けて急遽再開! 「すでに大宮セブンに入ってるようなもの」だったコマンダンテ、実際に入ってどう変わったのか。年間800を超えるステージに立つふたりが、劇場について思うこととは? シリーズ大宮セブン担当ライター・釣木文恵が聞く。ツイッターで応募する新加入記念読者プレゼントもあります!
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大宮セブン入りは「あ、めでたいことなんだ」
──去る3月18日に市民会館おおみやで行われた『大宮セブンライブ特別編』でコマンダンテさんの加入が発表されて1カ月ほど経ちましたが(取材は4月)、大宮セブン加入後、何か変化は感じていますか?
石井 仕事としては今までどおり大宮セブンの面々と舞台に立つことが基本で、そこはあまり変わらないです。でも久々に会う人、特に大阪の人とかが「大宮セブンおめでとう」と声かけてくれることが多くて。入ったこと自体「おめでとう」と声をかけられることなんやというのが、わかった感じですかね。
安田 NGK(なんばグランド花月)で、僕らふたりそろって笑い飯の西田(幸治)さんからおめでとうと言ってもらって「あ、めでたいことなんだ」と。そこで大宮セブンの大きさを改めて感じましたね。心境の変化はそこまでないですけど、オートバックス(大宮バイパス。大宮セブン第二のホーム)に出て、公演ポスターの写真のところに小さく「コマンダンテ(大宮セブン)」と書いてあったのを見たときに「ああ、セブンなんだな」と実感しました。公式マークついた、みたいな。
当日まで「これ、ほんまに入るのかな」
──「大宮セブンに入ってほしい」というプロデューサーX(初代大宮ラクーンよしもと劇場支配人、大宮セブンの生みの親)からのラブコールを、おふたりはいつごろ受けたんですか?
石井 ライブでも話しましたが、そもそも僕はちゃんとは誘われていなくて……。
安田 僕も「入りますか」じゃなくて「入ってますよね」という言われ方で(笑)。僕がそう言われ始めた、お披露目公演の半年前くらいですかね。最初は幕張の楽屋だったかな、X氏もいるところで福井(俊太郎、GAG)さんが「安田はもう大宮セブンに入っているようなもんなんで」と。僕はそこではうんともすんとも言ってないですけども、「あ、これは入るのかなあ」と思い始めた感じです。「入ってますよね」「入りますよね」と言われているうちに、入ってた。
──コマンダンテは過去に二度、大宮セブンへの加入を断っているという風の噂がありますが。
石井 はい(笑)。
安田 あくまでも風の噂ではそう言われていますね。本人、今ここにいるんですけど(笑)。
──過去二度のお誘いの時点では、大宮セブンに所属するのは違うなと?
石井 最初のお誘いに関しては、僕らの判断というよりも当時のまわりの人たち、マネージャーとかが「まだちょっと様子見たほうがいいんじゃないですか」と。東京に出てきたばかりの時期で、「どこかに所属するよりもまずはいろんなところに出て、たくさんの人と一緒になったほうが」と言われまして。僕ら自身よくわかっていなかったこともあって「じゃあそれでお願いします」という感じだったんです。2回目に関してはそれこそ風の噂という感じで、そもそもしっかりとオファーを受けていなかったので、正式に断ったわけではなくて。軽いジャブのようなふんわりしたアプローチはあったんですが、なんかそのまま……。だから今回も、僕は当日まで「これ、ほんまに入るのかな」と思ってました。
──2回目め同様、ちゃんと言われていないこともあって。
石井 はい。半年くらい前になんとなく言われるようになった時点で、3月のスケジュールはもう押さえられてたんです。でも「これってほんまに俺が行くやつかな?」とずっと思ってました。
安田 1回目に断ったあと、大宮の大晦日のカウントダウンライブに呼んでもらって。終わって舞台袖にハケたところにX氏がいて、耳元で「来年はお願いします」と言われたんですよ。これも風の噂ですけど。
石井 それはありましたね。
安田 「来年はお願いします」って言われて僕も「お願いします」とは言いましたけど、それがどういう意味なのか。今思えば、大宮セブンにという意味だったんでしょうけど……。
──すごいやりとりですね。
安田 具体的な言葉は何もなくて。でもこうして二度断ったかたちになったあともライブの回数が減ることもなく、セブンにも何度も誘いつづけてもらえたのはうれしいですし、これからは期待に応えたいなと思います。
石井 ずっと半信半疑だった僕がやっと実感したのが、セブンライブ特別編の日で。ライブが終わってハケたところにX氏がいて、握手したんです。そのときにやっと、「大宮セブンに入ったんだな」と思いましたね。
安田 僕も石井くんのあとに握手したんですけど、そこで完成したな、と思いました。X氏のセブンに対する思いはこんなにも強かったんだと伝わってくるような、ものすごく力強い握手だったんです。
安田のコミュニケーション能力
──コマンダンテのおふたりは去年、1年間で800を超える公演に出られたそうですね。おそらく吉本一、ということは日本一ではないかと思うのですが。
石井 ほんまに一番かはわからないんで、大きい声では言えないですけど。何かのインタビューでオズワルドが「1000ステくらい出てます」と言っていたのも見ましたし。
安田 オズワルドは外の劇場に出ていたりもするので……。一応、僕らは吉本の公式記録で800です(笑)。
──2020年夏に福井さんにインタビューをした時点で、すでに「今の大宮はコマンダンテとトットが支えている」とおっしゃっていて。
石井 そのころはほんまにそうでしたね。
安田 僕らとトットさん、ダイタクが多かったかな。
石井 あとアイロンヘッド。
安田 それこそ、大宮セブンがツアーに出ているときは僕らが大宮で留守番をしていましたね。
──「大宮の劇場で、コマンダンテが出ていないライブは大宮セブンライブだけ」と言われたこともありましたね。
石井 でも、最近はだんだん変わってきていると思います。大宮の支配人も、スケジュールを決める人たちも代わっているので。僕らも多いほうではありますけど(※2021年、大宮だけで313公演に出演)、2020年ごろに比べると、誰かが突出して出ているというわけではなくなってるかなと。
──それにしても、コマンダンテさんが大宮や幕張を中心にルミネ、NGKなど、ここまでたくさんのライブに出るようになったのはなぜなんでしょう?
石井 ライブに出るために必要なことって、まずは最低限の集客力。そしてほとんどを決めるのは、劇場のキャスティングを担当する社員さんなんですよね。で、僕らの場合は安田くんが……(安田を見る)。
安田 ……まあ、僕の口からは言いにくいんで、(石井に向かって)お願いします。
石井 以前、「安田がどこまで吉本を“握って”いるか」を本人が語るライブがあったくらい、安田くんはいろんな社員さんと仲がいいんですよ。安田くん自身はよこしまな気持ちはなく、ただ社員さんや裏方さんとコミュニケーションを取っているんです。そうすることで、自然と営業をかけるかたちになっているという。
安田 無言の圧力(笑)。
石井 でも、「僕らを使ってくださいよ」という気持ちを剥き出しにするわけではない。その感じが見えないからこそ相手も受け入れてくださるんでしょうけど。ただただ、いろんな社員さんと世間話をして仲よくなるというのが、安田くんの功績としてあると思いますね。
──結果、たくさんのライブに呼ばれるように。安田さんは、あくまで下心なく?
安田 全然。僕、芸人さんも好きなんですけど、一般のおじさんとかとしゃべるのもめっちゃ好きなんですよ。「どんな人なんかな」「どういう生活してるんやろ」と興味があるんです。で、しゃべるうちに心許してもらえるようになって、そうなるとライブの相談とかしてもらえるようになる。そのうち意思疎通ができてきて、気づいたら舞台にたくさん出るようになっていたんです。
──以前、安田さんはオートバックスの公演で「社員さんのため息を待つ」という話をされていましたね。
安田 それは大宮の社員さんのS氏に対する話ですね。大宮は今、3人の社員さんがライブを打っているんです。S氏は一番年配の方なんですけども、彼とは劇場の上にある喫煙ルームでよく会うんですよ。僕は寝転べるのでそこが好きで。S氏が入ってきてたばこを吸って、深いため息を「はあ……」とつくんです。そのときはちょっと間を空けてから「どうされました?」というところから会話が始まる。そのため息を聞き逃さないでほしい、と芸人仲間のみんなに伝えてはいるんですけども(笑)。
石井 そんなふうにあらゆるスタッフさんを握っている安田くんが唯一握れないのが、幕張の支配人、大宮セブンのプロデューサーXですね。
安田 実態がないというか、握りに行っても雲みたいにさっと消えていくというか。だから幕張に関しては、舞台上で結果を残すしかないんですよね。
石井 まあどの劇場も、もちろんそれが基本ではあるんですけどね。
あくまでも基盤は舞台
──年間800公演も出ると、消耗も激しいのではないかと思います。そのぶんネタも必要でしょうし、企画やコーナーも1日何ステージもやっていますし……。ステージを重ねるうちに筋肉がついてきた実感はありますか?
石井 筋肉がついてるかはわからないですけど、度胸はついたかなと思いますね。どんな場所に行っても、だいたいライブのほうが過酷なことが多いから。特に幕張では過酷な状況が多いので、いまはもうどんな場でも「今日、絶対結果残したるぞ」みたいに気負うことはなく、自然体で臨める感じはありますね。
安田 よかったなと思うのは、スベっても次のライブがどんどんやってきて、どれでスベったかもわからへん状態になることですかね。今までは「ああ、やっちゃったな」といちいち落ち込んでましたけど、今は反省する間もなく次の舞台に立ってるんで、自然と切り替えができてるかなと。スベり過ぎてわけわかんなくなってるだけかもしれないですけど(笑)。
──たくさんライブに出ることで、ライブに対する考え方は変化していますか?
石井 うーん、昔は舞台ってテレビに出るための練習場みたいな感覚があったと思うんです。でも今は逆で、舞台を見に来てもらうためにテレビに出るという感覚のほうが強い。ただ僕ら、今のところテレビに出られてるわけじゃないから、もっと出られるようになって、舞台に来てもらうための間口を広げる作業をしていかないといけないなと思っていますけど。あくまでも基盤は舞台にあって、そのためにいろんなことを努力しないといけないなと。
──テレビのための舞台じゃなく、舞台のためのテレビに。
安田 そうですねえ、やっぱり舞台が楽し過ぎるんですよ。毎回同じ舞台ってないじゃないですか。ウケてもスベっても何かしら事件が起きるし、舞台でお客さんに笑ってもらって、楽屋帰ってみんなでまたそれを振り返って笑い合ったりして。普通、失敗ってダメなことだし落ち込むことだけど、舞台での失敗っておいしいこともある。それはやっぱり楽しいですよ。もちろんテレビにもそういう面はあるんでしょうけども。体力的にいつまでできるのかな、と考えることもありますけど、こういう日々がつづけばいいなと思いますね。
漫才中にわかる、石井の変化
──ネタはどうですか? 舞台数がこれだけ増えると、ネタ作りにも変化があったりするものでしょうか?
石井 舞台数によってということじゃないんですが、最近ちょっとネタに対する気持ちの変化はあって。ルミネ(theよしもと)やNGKの寄席と、大宮や幕張のライブとではお客さんの層も違うので、これまでは「寄席でウケるネタもしないと」という気持ちが強かったんですよ。でも今はちょっと、こちらのやりたいことをやらせてもらおうかなと思っていて。本来は絶対にウケるものを寄席にかけつづけることが大事やと思うんですが、今は自分らのおもしろいと思うことを優先させて、それを伝える作業のほうをがんばってみようかなと。
──その変化や方向転換は、おふたりで話し合って決めてらっしゃることですか?
石井 ここ1年くらいは要所要所でまじめな話はしますね。といっても、今言ったようなことを明確に言葉で安田くんに伝えているわけではないんです。でもたぶん伝わってるやろなと思います。
安田 そうですねえ、めっちゃダサい言葉で言ったら、漫才中にわかるというか。
──かっこいいです。
安田 1回でわかるわけじゃなくて「最近あのネタやらなくなったな」とか「ちょっと攻めてるな」とか、そういう積み重ねで「あ、やっぱそうなんだ」と気づいて、そこに足並みそろえていく感じです。この歳になってトガれるのは、うれしいなと思ってます。
石井 それこそ、寄席以外にもいろいろ舞台があるからこういうことができるんかなと思います。出番が寄席しかなくて、そこでちょっと挑戦的なものをやっていたら、ただただスベるだけになってしまいかねないので。
──「自分たちのおもしろいに寄せたネタ」をやっていこうと思ったきっかけは何かあったんでしょうか?
石井 日々寄席に立ってるとどうしても、どういう人が観るかを考えながらネタを作るようになるんですよね。すると初期のころに比べてネタ自体が狭まって、縮こまってくる感じがあるんです。だから、今はもしかしたらウケない日もあるかもしれないけど、それを取っ払う作業をやらせてほしいなと思うようになってきて。
──この先のためにも、縮こまっているのを広げる。
石井 大阪にいたころ、天竺鼠さんが寄席でもずっとあのスタイルを貫いていて、あんまりウケない日もあったりするのを見てたんですよ。普通に漫才やったらウケるのに、と思ってた。でも今思えば、あの行動はお客さんに合わせに行くんじゃなくて、自分たちがこういう人なんだというのを伝える作業やったんかなって。僕らはこれまで、合わせに行くほうをやっちゃってたんですけど、それでは『M-1』とかで勝てないと思うので。
この漫才が遠回りでも近道でもいい
──そうやってネタの質が変わると、ネタの作り方にも変化があるものですか?
石井 そうですね。これまでは僕が全部作って、それを安田くんに伝えてという作業をしていたんですが、今はふたりでしゃべって作ってるんですよ。毎日テーマだけ決めて、アドリブでふたりでしゃべる。するとけっこう僕がボケることが多くなっちゃうんですよね。だから最近はほぼ両ボケみたいになっていて。それがいいのか悪いのか、今はまだわからないですけど……。安田くんってけっこう万能で、なんでもできるんです。だからこうやって変化していってもネタとして成立させられてるのかなと思います。昔の僕らを知っている人は、僕がめっちゃボケてんの見てどう思うんかな、とか考えたりもしますが。
──でも、今のところはおふたりとしてはそれが心地よい。
石井 僕は、ですけどね。安田くんがどう思っているかは聞いてないですから。
安田 漫才って正解とかないじゃないですか。だから、僕はこれが別に遠回りでも近道でもどっちでもいい。ただ今の必然でやってるんだろうし、自分らの型を決めてしまうより、とりあえずなんでもチャレンジするのがいいんだろうなと。僕自身、自分が絶対ボケなんだというのもないし、何にでもなれて、そのときの漫才で自分の全力を出せれたらなと思うので。何より楽しいですしね、新しいことをやるというのは。
──年間800公演出ているコンビが、「わからない」と言いながらいろいろ試しているのはおもしろくて魅力的ですね。
安田 まあ、これだけ芸歴重ねてくるとみんなそうですけど、寄席で絶対ウケるネタ、勝負ネタはあって。いつでもそこに戻れるから、壊すこともできるのかなと思います。実際今も、いろんな形を試しながら、石井くんはとっさにアドリブを入れてお客さんをちゃんと笑かす技術も備わっている。だからこうして挑戦できているのかもしれないです。
コマンダンテの次に大宮の留守番を任されるのは?
──これから、コマンダンテが加わって7組になった大宮セブンはどうなるんでしょう?
安田 結局変わらないと思いますけどね。
石井 うん。
──今後、大宮以外で『大宮セブンライブ』が開催されるときに、これまではコマンダンテが担っていた大宮の留守番役が、とうとう空くことになりますね。
安田 ああ、それはどうなるんですかねえ。
石井 まあ、ダイタクかなあ。
安田 ダイタクに任せたら間違いないです。どんな企画でも全部成立させる。彼らは本当に百戦錬磨の舞台芸人。
石井 でもダイタクもたぶんもう少しで売れちゃうから、次の人を探さんと。
安田 そうやな。
──この数年の間でも大宮は変化しているように見えます。大宮に限らず、幕張も、他のあらゆる劇場も、この先支配人が交代したり、それによって雰囲気がガラッと変わったりということもありそうですが、おふたりはそれにどう対応していこうと?
石井 安田さんはそこも抜かりなく、若手社員ともコミュニケーションを取っているので。
──強い!
石井 だから今後、若手の社員さんが支配人なりキャスティングを左右する立場になりました、じゃあ誰が出んねん、ていうときに安田さんが出るわけですよ。
安田 俺だけじゃなくて一緒にやろ(笑)。
石井 まあそうですけど(笑)。すごくいやらしい言い方すると先行投資というか青田買いもしているんですよね。といっても「この社員が伸びる」とか見極めているわけではなく、単純にたくさんの人とコミュニケーションを取っているというだけなんですけど。
──これもやはり下心なく、安田さんは幅広い社員の方と関わっている。
安田 ほんまに下心、まったくないです。おじさんとしゃべるのが好きと言いましたが、会社員の人が何してるのかめっちゃ興味あるんですよ。「お昼、いつ食べてるのかな」とかも気になるし、本社でみなさんがパソコンに向かってるときの顔とかめっちゃ好きなんですよ。お会いしたことないけど僕らの宣伝をしてくれてる人がいるんやろうなとか、そういうことを知るのがめっちゃ好きなんです。
──安田さん、もし会社員だったらその能力を発揮してすごく出世しそうですね。
石井 ほんまに。本出版してほしいわ。
安田 そんなたいそうなことやないって。なんだかんだ言って、劇場の変化は、結局僕ら芸人は受け入れるしかないですからね。
石井 でもやっぱり、どんなに劇場が変化していっても、できるだけいろんな場所に出つづけたいなと思います。
コマンダンテ
安田邦祐(1983年、大阪府生まれ)と石井輝明(1984年、大阪府生まれ)からなるコンビ。2006年、大阪NSC(養成所)にて同期(29期)として出会う。共に別のコンビを経て2008年にコマンダンテを結成。2016年、ytv漫才新人賞優勝。2017年に拠点を東京に移す。安田は広島カープ好きで「よしもと若鯉部」でも活動、石井はオリジナルのブレンドコーヒーをプロデュースするほどのコーヒー通としても有名
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