トータルテンボス「お客さんは7人」「当時は口だけだった」……『M-1』優勝より難しい“笑いの本質”を考える

2021.11.13


『M-1』に出られなくなって気持ちが途切れた

——まさに武者修行ですね。その後は順調に?

藤田 『M-1』のために始めたツアーだったから、2007年に芸歴10年を迎えて『M-1』への挑戦が終わってからは喪失感がすごくて。僕は「もうツアーやらなくていいでしょ、なんのためにやってんの?」となっちゃったんです。でも大村は「全国で観たいという人がいるんだったらつづけようよ」と。そこでちょっとぶつかりはしました。

大村 本末転倒ですよね。そもそも漫才ってお客さんを笑わすためにあるものなのに。でもそれくらい『M-1』はデカかった。いつからか僕ら「『M-1』で優勝するために漫才をやる」くらいまで思うようになってしまって。全国のお客さんを笑わせるなんて漫才の一番の醍醐味なのに、そこにモチベーションを持っていけなかった。僕自身「待っているお客さんがいるから」と無理やり自分に言い聞かせているような状態だったから、藤田を説得し切れなくて。その時期は本当に、藤田はついてきてるだけ、という感じでした。

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藤田 行ってしまえば、もちろん楽しいんですよ。

大村 そう、でもネタ合わせに力が入らなくてね。

藤田 2年くらいかけて、ようやく大村の言った漫才の本質を理解できるようになりました。「全国の方たちに笑いを届けたい」って、始めたころも言っていたけど、当時は口だけだった。でも今は本当にそう思ってます。なんなら、『M-1』優勝よりも難しいことだなと感じていますね。

大村 毎年ツアーを重ねて、少しずつお客さんも増えていって、その土地土地で年に一度我々を楽しみに待ってくれてる方が根づいてきて……。だからこそ、昨年途切れちゃったのはすごく悔しかったんですよね。

「せめて漫才の中でだけは、やりたいことだけやっていたい」

——ツアーを重ねていくなかで、ネタに変化はありますか?

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藤田 毎年ツアーでかけるネタのうち、芯となる2本くらいはそのまま寄席でかけて、当然のようにウケるんです。でも最近、ツアーで5、6番手だったネタが寄席で主力になるというパターンが生まれて。心境の変化もあるでしょうし、やり方がうまくなってきたというのもあるのかもしれません。昔だったらそのネタを主力にすることはできなかったと思うんですよ。

大村 もちろん全ネタを寄席でかけられるものにする腕があればそれに越したことはないんですが、そうやって5、6番手だったネタを、1本昇華できたのは自信につながりますよね。

藤田 そのネタ、最初はやっていて楽しくもなかったんです。それが今楽しくできるようにもなった。これは心の持ちようかもしれませんけど。

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大村 ネタを作っている身からすると、全ネタに同じだけ愛を注いでいますけど、このネタに関しては最初藤田が全然乗ってこねえな、とは感じていました(笑)。それが途中から急に、すごく前向きに取り組んでくれるようになったんですよね。

——藤田さんのネタに対する乗っかり具合が変わってきた?

大村 そう、藤田が全乗っかりしてくれたら絶対強いんですよ、うちは。でも彼の気が乗らないネタがどうしてもある。

藤田 ウケるから気が乗るというわけでもないんですよ。ほかと比べてウケないけど楽しいのもある。

大村 だけど結局、ずっとウケてないと楽しくなくなるだろ?

藤田 うん。

——その5、6番手だったのは、どんなネタですか?

大村 「マネージャーになりたい」という漫才です。特に奇をてらってもないから、藤田がそんなに気に入るものにはならないかなと思いながら提出したネタではあるんですけどね。

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藤田 最初のころ、このネタにすげえやりたくない箇所があったんですよ。歌に合わせて俺が踊るところがあって、嫌で嫌で。そのくだりがブラッシュアップしていく途中でなくなったのがデカかったです。

大村 藤田が僕のマネージャーで、「月曜日は?」「何々です」「火曜日は?」「何々です」とひとつずつの仕事内容で笑わせていく。で最後、回収というか、「一週間」の歌に合わせて藤田にヘンな動きをさせるんです。

藤田 大村はそういうことをやらせたがるんですよ。でも本当に嫌だから乗れない。乗れないと、おもしろくならない。

大村 結局このネタではそのくだりを断念しましたけど、彼がスイッチを入れてくれたら絶対におもしろいとは思ってるんですよ、今でも。

藤田 スイッチはね、入れてやるもんじゃないです。自然と入るものなんで。一生懸命やったらおもしろいんだろうなとはわかるんですけど……。

——このネタでは藤田さんの嫌な部分を省いたことがいい方向へと転がったんですね。

大村 俺は、常に本気でやってる藤田を想像してネタを書いてるから。空気階段の鈴木もぐらって、何やってもおもしろいじゃないですか。僕の中では藤田はもぐらとほぼ同じで。

藤田 全然違うよ、体型も何も違うよ?

大村 もぐらだと思ってネタ書いてる。

藤田 あんなずんぐりじゃねえよ!

——でも長年藤田さんを見てきている大村さんは、藤田さんはもぐらさんに似たところがあると思っている。

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大村 そうですね、本気を出したら何やってもおもしろい。けど全部に首を縦に振ってはくれないのが玉にキズで。これも含めて藤田なんですけど。

藤田 やりたくない仕事をやらざるを得ないときってありますけど、せめて漫才の中でだけは、やりたいことだけやっていたいんです。


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