NON STYLE「漫才やコントがなくなる時代がくるかもしれない」。彼らが変えていくこと、変わらないこと

2021.9.11
NON STYLE

文=堀越 愛 撮影=イナガキケンイチ 編集=鈴木 梢 衣装:Bohemians


2000年、神戸・三宮のストリート漫才から始まったNON STYLE。結成直後から華々しい結果を残し、石田が生み出すネタと井上の唯一無二のキャラクターを武器に、芸能界を駆け抜けた。そして2020年。結成20周年の節目となる年である。しかし、開催予定だった周年ライブツアーは、コロナ禍により中止に。

20年を経て、NON STYLEは「ベテランの風格」と「新ネタを作りつづける若々しさ」ふたつを兼ね備える漫才師となった。漫才師としてステップアップし、石田には家族ができ、取り巻く環境はどんどん変わる。災害やウイルスなど、いち個人では抗えない変化もあった。 変わりゆく環境に流されながら、NON STYLEが変えずに持ちつづける信念とは。1年越しの開催が決まったライブツアー『NON STYLE LIVE 2021 〜あっというま~』を直前に控えたふたりは今、何を思うのか。

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今は「NON STYLE」という器をおっきくする時期

——コロナ禍になり、テレビやライブなど仕事の環境が大きく変わったと思います。気持ちの変化はありましたか?

井上 世の中が暗いときも、バカなことやって笑ってもらうことしか僕らはできないので、変化は特にないと思います。僕らのパフォーマンスが変わったとかはないんですけど、観てくれる方の意識や感覚は変わっていってるんだろうなぁとは思うんです。

NON STYLE_井上裕介
井上裕介(いのうえ・ゆうすけ)1980年3月1日生まれ、大阪府大阪市出身

たとえば“うしろから抱きつく”とか“肩組む”とか、昔なら「仲いいなぁ」と思ってもらえた行動が、今は「濃厚接触だ」みたいな。観てくれる方の意識や感覚に合わせてできること、できないことは変えていきますけど、根本はそんなに変わってないかなと思います。

石田 芸人に変化があるとしたら、「無観客に慣れた」っていうのはあると思いますね。ただ、だからこそ「お客さんがいるときの楽しさ」もみんな再確認したと思いますよ。最近ね、劇場でほかの芸人のネタ観てると、「本当に楽しんでる人が増えたな」と思うんです。

コロナ禍以前ってお客さんの前でネタをすることが日常で、なんとなくネタを“こなす”ようになってしまってた芸人もいたと思うんですけど、無観客を経験したことで、お客さんの前でネタをやる楽しさに改めて気づけた。この再確認ができたのは、芸人としてすごいよかったんじゃないかなぁと思います。

——今年で22年目に入り、現在41歳のおふたりにとっては「芸人として生きてきた期間」のほうが長くなりました。改めて、これからやっていきたいことはありますか?

石田 僕は、老ければ老けるほど“若い”ネタに挑戦したいなと思ってます。

NON STYLE_石田明
石田明(いしだ・あきら)1980年2月20日生まれ、大阪府大阪市出身

——若いネタ、ですか?

石田 常識的ではなく、バカな設定というか。おっさんになればなるほどおもしろいネタがあると思うんで、そういうのを追求したいと思ってます。師匠クラスになると「○○さんといえばこのネタ」みたいに一個のネタを追求していく方が多いと思うんですけど、僕はこれからもいろんなネタに挑戦したいんですよ。若い子たちに負けんとがんばってるおっさんって素敵かなと思ってるんで。

——逆に、石田さんがこれから変えずにつづけたいことはありますか?

石田 最近はコンプライアンスを重視する時代ですし、それは大事なことだと思いますけど、僕らとしては今後もバカバカしく仲よさげに、“イジりイジられ”をつづけられるようにしたいなと思いますね。僕は井上をイジりまくってますけど、容姿イジリじゃなく「生き様イジリ」なので。あくまで、井上のスタンスを否定してる。井上イジリで笑ってもらえへんくなったときは、もういろいろ終わっちゃうときなんかなって思ってます。

NON STYLE_石田明
あくまで井上の“スタンス”を否定している石田

——井上さんは、いかがですか? これからやっていきたいこと。

井上 コロナ禍になる前は、50歳まで芸人でいつづけるためのビジョンが構築できてたんです。「こういうことしとけば生きてけるなぁ」みたいなルートを考えてたんですけど、コロナ禍でそれが全部壊れたんで。だから今は、これからやるべきことを模索してるところですね。

——元は、どんなルートを作っていたんでしょうか?

井上 以前は、このまま漫才をつづけていれば、収入的には生きていけると思ってたんです。バラエティやロケも、僕のスタンス的に「こういうことをすればいい」というのが見えてたんですね。でもコロナ禍になって、有観客のありがたみを感じた反面、「無観客でも楽しめるな」って思ったところもあるでしょう。となると、劇場に立つ人間が「いらんやん」ってなる時代が加速する可能性もありますよね。音楽も「CD出さなくてええやん」っていう時代に入ってもうたし、お笑いもそうなる可能性は大いにあるなと思って。ここからの10年間でいろんなことが変わるような気がするので、時代の流れを読み切る力がないとしんどくなっていくやろなぁと思うんですよ。

——井上さんが今、読んでいる時代の流れはどんなものですか?

井上 5Gになって動画全盛時代に入るのは間違いないですよね。そのときにおもしろいのが“有観客のお笑い”なのか“無観客のお笑い”なのか、そもそも、お笑いというものを観ない時代に入るのか。若い子が観てるYouTuberみたいなおもしろさがもっと主流になったら、僕らがやってるような漫才やコント自体がなくなる時代が来るかもしれないし。……なかなか読み切れないですね。だからいろんなことに対応できるように、今はNON STYLEという「器」をおっきくする時期なのかなぁという感じです。

NON STYLE_井上裕介
5G時代を語る井上

——ちなみに、コロナ禍でおふたりの関係性に変化はありましたか?

石田 変わってないと思います。ファンクラブ(「いまさらファンクラブ」)ができたり、YouTubeでネタを上げるようになったりしたんで、(関係性が)密にはなりましたよね。ネタ合わせする機会も、ふたりでしゃべる機会も増えたんで。でも一緒に仕事する機会は減ってるし……なので、よりフラットになった気はします。

NON STYLE
雨上がりの屋上とNON STYLE

「ネタはほんとに、ナマモノなんでね」


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