なぜ多くの芸人が「野球」をコントにするのか──“野球ネタ”の未来を語る徹底討論(ゾフィー上田×ザ・マミィ林田×吉住)

2021.8.25
ゾフィー上田×ザ・マミィ林田×吉住の“野球コント”

文=斎藤 岬 撮影=前田 立 編集=山本大樹


古今東西、お笑いにおける「野球ネタ」は芸人の誰もがひとつは持っているほどの鉄板ネタとなっている。高校球児、プロ野球選手、マネージャー、補欠、監督……ネタの設定やキャラクターも多種多様。芸人たちは「野球」のどんなところに惹かれてコントの題材にしているのだろうか?

今回、集まってもらったのはそれぞれ独自の視点から「野球ネタ」を作っている上田航平(ゾフィー)、吉住、林田洋平(ザ・マミィ)のコント師3人。本格的に野球に取り組んだことはないという3人が、コントにおける「野球」を熱く語る鼎談の前編。

野球経験はほとんどないという3人の「野球コント」鼎談、プレイボール!

上田航平(ゾフィー)
お笑いコンビ・ゾフィーのネタ作り担当。主な野球ネタに、ねずみ講と化した高校野球部を描いた『野球部の末路』、手術の約束を結ぶ野球選手を描いた『ホームランを君に』。

林田洋平(ザ・マミィ)
お笑いコンビ・ザ・マミィのネタ作り担当。主な野球ネタに、夏の大会で大敗した野球部を描いた『野球部』。

吉住
ピン芸人。2020年、『女審判』のネタで『女芸人No.1決定戦 THE W』優勝。そのほかの野球ネタに『時をかける女』。

『熱闘甲子園』で号泣できますよね?

──今日は「野球とコント」をテーマに座談会すべく、集まっていただきました。

上田 大丈夫ですか? 1時間しゃべれる気がしないんですけど……。

──ひとまず、やってみましょう! 今回は、野球経験はないけど野球のネタをやっているコント芸人の方のお話を聞きたくて、お三方をお迎えしました。なぜ野球がよくコントのネタにされるのかなど、やったことがない人の外側からの目線で語っていただこう、と。ただ、上田さんはお父さんが高校野球の監督(※)とあって、野球と無縁ではないんですよね。

※1991~2015年に慶應義塾高校野球部監督を務めた上田誠氏。著書に『エンジョイ・ベースボール』(NHK出版)がある。

上田 そうなんです。だから厳密に言うと、小学校のときはやってました。

林田 やらされてたんだ。

上田 そう。親父は本当に『巨人の星』の星一徹みたいな人間だったんで、玄関に「腕立て100回、腹筋100回、素振り100回」って張り紙がしてあって、それをクリアしないと家に入れないルールでした。僕は一休さんみたいに「じゃあ裏口から入ろう」って思ったんですけど、実行したらクッソ怒られましたね。けっこう本格的にプロ野球選手にしたかったみたいで、その反動でめちゃくちゃ野球が嫌いになりました(笑)。テレビでも絶対観たくないし、ルールすら知りたくない、できるだけ野球を視界に入れずに過ごしてました。……だから野球に対する愛情は、ない(笑)。

吉住 聞きたくなかった~(笑)。

上田 でも俺が大学のときに、親父が甲子園に行ったんですよ。それでちょっと見方は変わりました。

林田 「ちゃんとやってたんだ」ってなったんですね(笑)。

上田航平(ゾフィー)1984年生まれ、左投左打。高校時代は剣道部。左利きだが、編集部が用意したグローブが右利き用だったためキャッチボールに大苦戦

林田 僕は野球、好きですよ。小学校のころは毎日野球して遊んでましたし、イチローが大好きでずっとメジャーリーグの情報を追いかけてました。自分でも野球やりたかったんですけど、イチローがすご過ぎるから「こうはなれないな」と思って始める前に挫折して、サッカーやってました。新聞でプロ野球の結果見るのも好きだったし、今もオリンピックの日本代表チームを応援してます。

吉住 私は家族が野球好きで、テレビかラジオの野球中継がずっとついてたんで、なじみはあります。出身が福岡なのでホークスを見てましたね。お兄ちゃんが野球やってたんで、一緒にキャッチボールもしてました。あと、甲子園の時期って深夜に番組やってるじゃないですか。

林田 『熱闘甲子園』(朝日放送)?

吉住 そうそう。あれで号泣できるくらいには野球好きです。あれ、すごい泣けません?

林田 たぶん、ここ(上田/林田・吉住)で分かれるんですよ、泣ける泣けないが。

上田 違うの、俺もだんだん受け入れ始めてるから。

林田 『熱闘甲子園』で泣けます?

上田 泣けます、泣けます。

吉住 1989年生まれ、右投右打。中学・高校時代はテニス部で、キャプテンを務めたことも

“報われない雰囲気”が笑いにつながる?

──野球との距離感はそれぞれですね。コント中心の芸人さんは、みんな1本は野球ネタを持っている気がするんです。なぜ作られやすいんだと思いますか?

吉住 サッカーより身近にある気はしません? 『ROOKIES』みたいに野球関連の映画やドラマも多いし、みんなが持ってる共通認識があるから。みんな「ストライク」はなんとなくわかるけど「オフサイド」って言われてもよくわかんないじゃないですか。

林田 確かに、それはあるかもなぁ。野球自体は誰でも絶対知ってるし、熱心に見てない人でも「甲子園が夏にやってる」くらいのことは知ってる。

上田 「野球部といったらこれ!」ってイメージがほかのスポーツに比べて強いから、逆に自分のオリジナルを入れやすいんだよね。サッカー部はたぶん、学校によってけっこうスタイルが違わない?

林田 違いますね。坊主が指定されてるサッカー部は野球部っぽい雰囲気だったりします。

吉住 あと、野球部って弱小校でもすっごい練習してるイメージがありますね。

林田 わかる。うちの学校もそうだった。挨拶もちゃんとしてるし。

吉住 それで大会出てすぐ負けちゃっても、後輩たちも「あんなにすぐ負けるんだったらもういいか」ってならなくて、ちゃんとやる。

林田 監督もちゃんと怖いしね。

吉住 これは偏見なんですけど、野球部ってどこか報われない雰囲気があって、それがちょっとおもしろいのかもしれない。

林田洋平(ザ・マミィ)1992年生まれ、右投右打。高校時代はサッカー部でフォワード、ヘディングが得意だった

上田 確かに、だからドラマを生みやすいのかも。「がんばる運動部」をベタにやるってなって、野球とサッカーの2択なら野球を選びそうじゃない? 部員の勧誘でもサッカー部より野球部のほうがドラマがありそうな感じがする。

林田 愚直というか、まっすぐなイメージもあるし。

上田 やっぱりどっかでサッカー部のことはチャラいとか「しゃらくせぇ」と思ってるのかもしれない(笑)。

林田 チャラいものを笑いにしようとしても難しいですよね。ズラしづらいというか。サッカー部はイジりしろが少ない。

上田 これも完全に偏見だけど、雨の日にグラウンドで練習する姿を見つめる女子の視線を感じられるのがサッカー部で、ひたすら本気で練習に打ち込んでるのが野球部、っていうイメージあるよね。でも、もしかしたらもうちょい下の世代になるとサッカーネタのほうが多いかもしれないです。俺らはテレビでガッツリ野球中継をやってた世代だけど、そのへんがだいぶ違うじゃないですか。20歳前後の人だと、野球ネタやるにしても“熱血”よりもユニフォームイジリとかにいってる気がするな。

吉住 “熱血”は私たちの世代が手垢つけまくったから避けてるんじゃないですか? 野球ネタの終焉じゃないですけど……。

上田 「末路」じゃん(笑)。

林田 “ホームランの約束”系のネタも、本当はまだやりようがあったと思うんだよね。だから自分たちでも作ってみたんです。違う角度で一個くらいやれるんじゃないか、こんなにベタな設定だからこそ逆に自分たちの色が出せるんじゃないかと思ってやってみたんだけど、ダメでした。

吉住 無理だったかー。

アニメ『時をかける少女』さながらの楽しいキャッチボール風景

林田 もうあんまり人がやってるのも見ないですよね。この2~3年で“ホームランの約束”系の新ネタができたって話、聞いたことない。もうやり尽くしたんじゃないかな?

吉住 でも、だからこそ時々「あ、その角度で来る!?」みたいなのがあるとびっくりしない?

林田 するけど、よっぽど新しくないと難しいでしょう。

吉住 『キングオブコント』の決勝で観てみたいけどな、“ホームランの約束”。

林田 ラブレターズさん以来だ。

──2014年ですね。

林田 あれが最後だったんですよ、きっと。

上田 今、あれ系のネタ観るともうゾワッとしちゃうかもしんない。

林田 そう、明転してベッドがあって野球選手が立ってた時点で「あ゛ー!!」って。

上田 たぶんまぁまぁ年齢いってるおじさんが子供の役で「いやだ、手術したくない!」って言ってる。ゾワッとしてしまうな……。

吉住 ヤダヤダヤダ。心がキツいですね。何パターンか観たことあるから「こう来るのかな?」「こう展開するのかな?」って考えちゃうし。

林田 可能性の線が一瞬で脳内にバッと広がりますよね。「アマチュアの選手なのかな? なんの設定かな」って。

「ホームランの約束」は賞味期限切れ? 野球ネタの未来を語る

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