「世の中そんないいものだけじゃない」。ハリウッドザコシショウの「気持ち悪さ」は緻密な計算の上に成り立つ

2021.8.7
ハリウッドザコシショウ

文=ラリー遠田 撮影=いわなびとん 編集=鈴木 梢


『R-1ぐらんぷり2016』で優勝、『R-1グランプリ2021』では審査員も務めたピン芸人・ハリウッドザコシショウ。有名人の特徴を過剰に表現した「誇張ものまね」ネタで知る人は多いかもしれない。

誇張ものまね以外にも独特の芸風で繰り広げる漫談などのネタも持ち、その姿を見た人は笑いながらも、時に動揺、困惑することもあるのではないだろうか。しかし彼の芸風のあらゆる面は、実は緻密な計算の上に成り立っている。ただの狂人というわけではない。

エゴサーチをするなかで、「ザコシ気持ち悪い」といった言葉を目にすることもある。しかし本人は、それも「ちょっとうれしくなる」と話す。彼が追求するお笑いの在り方とはどんなものなのか。


「ものまね」というパッケージのわかりやすさ

ハリウッドザコシショウ
ハリウッドザコシショウ(はりうっどざこししょう)1974年2月13日、静岡県出身。1992年に大阪NSC11期生として入学、現在はソニー・ミュージックアーティスツ所属。『R-1ぐらんぷり2016』で42歳史上最年長王者

——ザコシさんが『R-1ぐらんぷり2016』で優勝したときには「誇張ものまね」のネタをやっていましたね。やはりあのネタを作ったのが優勝の決め手になったんでしょうか。

ザコシ そうですね。まず、ものまねというパッケージがあるから世間に浸透しやすかったんです。たとえば、「今からギャグの羅列をやりますよ」というパッケージだったら、引いてしまう人もいると思うんですよね。若い子はいいけど、ちょっと歳いってる人はギャグっていうのがよくわからないから。ものまねだったら「じゃあ観てみようか」っていうふうに、視聴者の方も降りてこられるところがあるんですよ。判断基準ができるというか。

あと、普通のものまねというフリがあって、すごくオーバーなものまねをするでしょう。僕みたいに表現の仕方が下手でも、そういうテンプレートがあるからわかりやすかったんじゃないですか。

——『R-1』で披露された誇張ものまねも、あの形になるまではけっこういろいろ試行錯誤をされていますよね。

ザコシ そうですね。あれに辿り着くまではなかなか大変でした。もともとは「誇張しすぎたものまね」とか何も言っていなくて、「古畑漫談」ということで、3分間ずっと古畑任三郎のちょっとオーバーなものまねをやっていたんですよ。

それを『R-1』の予選でやったら、1回戦はバカウケしたけど、2回戦ではまるっきしウケなかったんです。それで、どの舞台に立ってもある程度ウケるようにしないといけないんだな、と思いました。

単独ライブで「ものまね30連発」というコーナーをずっとやっていて、このコーナーはけっこうウケるから、それをグーッと3分に縮めたような感じでやったらどうかなと思って、ライブで試してみたんです。

それがまあウケるんですよ。それで、これってわかりやすいのかなと思って、そこからどんどんブラッシュアップしていったという感じですね。最初は3分でものまねを3個ぐらいしか入れてなかったんですけど、要らないところを全部削ぎ落としたら8個入れられたんです。ネタの順番とかも細かく考えていきました。

ハリウッドザコシショウ

——ザコシさんって、あまりお笑いを知らない人が観たら、勢いだけでやっているみたいに思われがちじゃないですか。でも、こうやってお話を伺っていると、実はけっこういろいろなことを考えていて、緻密にやっている部分もあるわけですね。

ザコシ ぶっちゃけて言うと、緻密にやっている部分しかないかもしれないです。すべての収録の前に綿密に打ち合わせをしているし、何をやるかというのは僕なりに事前に考えています。忘れたら嫌だからパンツの中には絶対にカンペを入れているんですよ。実際見ないにしても、忘れてしまうのが一番残念だから。絶対にやりたいものは出し切りたいし、盛り上がったところでこれを出したほうがいい、っていうのも自分の中で計算してやっていますから。

「ザコシ気持ち悪い」もうれしい


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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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