2020年に終わった作品も振り返ろう
オグマ ランキング以外での、この1年の野球マンガ界隈のトピックスも振り返っておきます。昨年は、水島先生の引退宣言もあって、野球マンガの一時代が終わったというか転換期ともいえます。そんななかで連載が終了してしまった作品というと、代表的なところは『群青にサイレン』(桃栗みかん/集英社 ※全12巻)でしょうか。
ツクイ 『群青にサイレン』は『月刊YOU』で連載が始まったものの、雑誌休刊に伴い『少年ジャンプ+』に移籍。少女マンガ誌から少年マンガサイトへ、紙からWEBマンガへの強制移行という、作者本人にはどうしようもない不可抗力のなかで苦労した作品でしたが、間違いなく良作でした。
オグマ 読者層を固定できなかった、ということでの終了なんでしょうけど、そもそも違うターゲット向けに描いていた作品なんだからそりゃそうでしょ、となりますよね。
ツクイ 女子向けに始まった作品ですからね。その意味でも、初期構想ではどんな結末を想定していたのかがとても気になります。野球マンガウォッチャーとしては、もったいなかったなぁ、と。ほかに終わって残念だったのは『ぼっちなエースをリードしたい』(水森崇史/小学館 ※全3巻)。連載がつづいていればランキングに入れたかったほどおもしろかったです。トーナメント戦を戦っていく高校野球モノは巻数を重ねていくほどおもしろくなるんだから、1、2巻が売れないからと切っちゃうのはもったいない。そして、最終巻だけ電子書籍限定、といった扱いも本当にやめていただきたい。
ネット発野球マンガの台頭と、あの名作の復活!?
ツクイ 昨年のトピックスとしては、野球マンガにおけるネット勢の勢いですね。ランキングに入ったものでも『アルプススタンドのはしの方』は『やわらかスピリッツ』で、『ビッグシックス』は『コミックブル』での連載。ほかにも、先ほど挙げた『群青にサイレン』は『少年ジャンプ+』、『ぼっちなエースをリードしたい』は『裏サンデー』。
オグマ 変わらず人気の『忘却バッテリー』(みかわ絵子/集英社)も『少年ジャンプ+』です。
ツクイ 野球マンガ界に登場した待望(?)の異世界モノ、『野球で戦争する異世界で超高校級エースが弱小国家を救うようです。』(原作 海空りく/漫画 西田拓矢)も『ニコニコ静画』での配信です。いつか出るだろうと思っていた野球×異世界転生がついに……。まあ、内容はともかくなんですけども。
オグマ 児童向け書籍の『戦国ベースボール』(りょくち真太/集英社)も大人気ですから、ようやくというかなんというか。
ツクイ それが定番化している子どもたちには読みやすいのかも。それにしても、『コミックブル』の押しの強さが気になります。『ビッグシックス』以外でも、『リトル・ブル』(原作 Cボ/漫画 佐藤駿光/講談社)という女子野球モノ。そして『名門!第三野球部~リスタート~』(原作 むつ利之/漫画 金木令/講談社)。
オグマ 80年代後半に人気を博したあの『名門!第三野球部』が新たに始まったこと、ほとんど知られていないですよね。ただ。着眼点はいいのに内容が伴っていないというか……。
ツクイ まず思ったのは、「リスタート」って何? 「リブート」じゃないんだ、ということと、この絵柄で斉藤輪大をどう描くの?ということは気になりましたけど(笑)、『第三野球部』をもう一度イチから始めよう、という発想自体はおもしろい。
オグマ そう、発想はいいんです。でも、1巻を読む限り、2020年代感がないんですよね。1巻では「パワハラ」という単語が一度出てきただけ。今どきシゴキなんてあり得ない、熱血なんて古臭い、野球部なんてブラック部活だ、と社会問題にもなるなかで、まさにそんな「シゴキ・熱血・ブラック」感満載だった作品を令和の今、どう描くの?ということなのかと思ったら、絵柄が変わっただけで特にそうでもないという。もっとも、まだ始まったばかりなので今後の展開次第ですね。
ツクイ ただ、往年の名作を今の絵柄で描く、ということに新しい可能性を見たというか。たとえば、『山下たろーくん』(こせきこうじ/コアミックス)なんかも読めば今でもおもしろいわけです。『第三野球部』もそうだけど、読ませるパワーがある。そこを、今の若い世代にどう訴求していくのか、という点で期待したい動きではあります。
2021年の野球マンガに期待すること
オグマ 往年の作品のリバイバルという意味では、コージィ城倉先生の『プレイボール2』(原案 ちばあきお/集英社)もありますし、実際、もっと展開していきそうですよね。
ツクイ ただ、「『プレイボール2』は10巻以内で終わります」と宣言していたのに、もう12巻に到達してどこまでいくのか……。『キャプテン2』だってあるのに、と心配になります。
原作 コージィ城倉/漫画 水上あきら/小学館サービス
ツクイ クロマツ先生はもはや完全に野球マンガ界に根を張りましたよね。今、一番勢いのある野球マンガ家と言っても過言ではないと思います。
オグマ 昨年、『ヤキュガミ』(原作 クロマツテツロウ/漫画 次恒一/講談社)が『ヤキュガミREBORN』として特別復活したように、この勢いで『野球部に花束を』(秋田書店)も復活してほしいです。
ツクイ 2021年に期待したいマンガ家というと、『クワトロバッテリー』の高嶋栄充先生がいます。最近判明したんですけど、高嶋先生って『忘却バッテリー』のみかわ絵子先生と夫婦だって知ってました?
オグマ えぇ!? 知りませんでした……。何その最強野球マンガ夫婦。
ツクイ SNSで「奥さんのみかわ絵子氏の漫画が~」「元高校球児の旦那の単行本が~」とお互いの単行本を告知し合っていて仲睦まじいです。この夫婦が作品内容的にも今年は大暴れしそうな予感があります。
オグマ そして、時代性という意味では「コロナ禍をどう扱うか」という作品がそろそろ出てきそう。というか、まだ出ていないのか、というのが正直な感想です。ずっと連載がつづいていた作品が急にコロナは描けない、というのはそうだと思うんです。ただ、去年連載が始まった作品でも、そのことを一切触れてないのはどうなのかなぁと。
ツクイ それこそ、水島先生がバリバリやっていたころならば、無観客の中でする野球、というのは一大テーマになり得た気がします。
オグマ そうなんですよ。無観客ってある意味すごく大きなテーマじゃないですか? 島耕作がコロナにかかる時代に野球マンガはどうするんだ!?というのは、2021年の新たな課題かもしれません。注目していきましょう。
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関連リンク
- 『アルプススタンドのはしの方』漫画 森マシミ/原作 籔博晶/小学館
- 『ボールパークでつかまえて!』<1巻>須賀達郎/講談社
- 『ビッグシックス』<1巻>原作 若生わこ/漫画 川/講談社
- 『あの月に向かって打て!』<1巻>寒川一之/小学館
- 『群青にサイレン』<1巻>桃栗みかん/集英社
- 『ぼっちなエースをリードしたい』<1巻>水森崇史/小学館
- 『忘却バッテリー』<1巻>みかわ絵子/集英社
- 『野球で戦争する異世界で超高校級エースが弱小国家を救うようです。』原作 海空りく/漫画 西田拓矢/講談社
- 『リトル・ブル』<1巻>原作 Cボ/漫画 佐藤駿光/講談社
- 『名門!第三野球部~リスタート~』<1巻>原作 むつ利之/漫画 金木令/講談社
- 『ハーラーダービー』<1巻>原作 コージィ城倉/漫画 水上あきら/小学館サービス
- 『ヤキュガミ』<1巻>原作 クロマツテツロウ/漫画 次恒一/講談社
- 『クワトロバッテリー』<1巻>高嶋栄充/秋田書店
- 『やわらかスピリッツ』
- 『コミックブル』
- 『少年ジャンプ+』
- 『裏サンデー』
- 『ニコニコ静画』
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