第164回直木賞全候補作徹底討論&受賞予想。授賞すべきは、加藤シゲアキ。だが本命は、杉江もマライも『インビジブル』

2021.1.20
直木賞164

1月20日、第164回直木賞が発表される。浅田次郎、伊集院静、角田光代、北方謙三、桐野夏生、高村薫、林真理子、三浦しをん、宮部みゆきの9名の選考委員による本家選考会にさきがけ、書評家・杉江松恋と文学を愛するドイツ人、マライ・メントラインが全候補作を読んで徹底討論、受賞作を予想する。

■第164回直木賞候補作
芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』/文藝春秋 初
伊与原新『八月の銀の雪』/新潮社 初
加藤シゲアキ『オルタネート』/新潮社 初
西條奈加『心淋し川』/集英社 初
坂上泉『インビジブル』/文藝春秋 初
長浦京『アンダードッグス』/KADOKAWA 初

裏切りに次ぐ裏切り『アンダードッグス』

杉江松恋(以下、杉江) マライ・メントラインさんと一緒に直木賞大予想、まずお互いのイチオシを言っておきましょうか。実は芥川賞よりこっちのほうが私は悩みました。

マライ・メントライン(以下、マライ) 私は『インビジブル』です。

杉江 おお。好きな小説は『インビジブル』で同じです。受賞があるとしたら、唯一の時代小説の『心淋し川』かな、という気がしますが。まずは『アンダードッグス』から。

『アンダードッグス』長浦京/KADOKAWA
『アンダードッグス』長浦京/KADOKAWA

『アンダードッグス』あらすじ
1997年、元農林水産省の古葉慶太はある日、香港の銀行からあるものを盗み出す使命を押しつけられる。やむなく現地を訪れた彼を出迎えたのは意外な人物の死だった。それから21年後、古葉の義理の娘である瑛美もまた、有無を言わせぬやり方で香港に呼び出されていた。

マライ エリート官僚の使命感ゆえに汚職に加担したためドロップアウトし、余生めいた日々を送る主人公が、列強の野心が絡み合う国際的陰謀にいきなり巻き込まれて、という長篇小説。「国益とは何か」を考えさせる点は時宜に適っていてナイスだと思いました。この作品、ぶっちゃけ言えば広江礼威さんの『BLACK LAGOON』系なんですよね。こういう小説の場合、暗躍する各国キャラの深みや、登場人物が何を背負って戦っているのか、という点が重要なんですけど、そのへんがいまいち薄いかなと。スピード感とツイストが読みどころだと思うんですが、それが結局「実は裏切り者でした」「味方でした」の繰り返しに終始している印象があって、やや単調に感じます。

『BLACK LAGOON』<1巻>広江礼威/小学館
『BLACK LAGOON』<1巻>広江礼威/小学館

杉江 英国風のアマチュアを主人公とする冒険小説で、初対面のメンバーがひとつの目的に向かっていく、チーム戦もある、という内容ですね。裏切りに次ぐ裏切りなので、そこで胃もたれするかも。

マライ ロシアも中国も英国も、イマイチお国柄を反映せずに「駒」みたいに動きますよね。なぜかアメリカだけが極悪設定(笑)。

杉江 重要そうに見える登場人物がいきなり死ぬ、展開の読めなさはエンタテインメンとしては高く評価していいとは思います。

マライ でも死亡フラグが露骨ですよね。難病の家族のために、みたいな。

マライ・メントライン
マライ・メントライン「死亡フラグが露骨です」

杉江 あんなにみんな、身の上話(含む嘘)をしなくてねえ。律儀にみんな過去を背負う必要があるのか、それは話を推進する上の重しになるだけではないか、という疑問があります。周囲の、私よりも年配の冒険小説ファンは不思議と絶賛する人が多いんです。その気持ちはわかりますが。

マライ 登場人物がほとんど非日本人なのに心情が浪花節なのはなぜ、と私は言いたい。

杉江 浪曲ファンとしては「浪花節」は最大級の褒め言葉なんですが、おっしゃる意味はわかります(笑)。まあ、書きつづけているうちに贅肉が取れて引き締まっていくのではないかと、今後に期待しましょう。

人気出てほしい!『インビジブル』

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