のんが語る、表現者として目指す高み 「無敵な気分」と「自分への落胆」が同居する日々
大九明子監督が綿矢りさの同名小説を原作に映画化した『私をくいとめて』が2020年12月18日に封切られた。ロングランヒットを記録した『勝手にふるえてろ』でもタッグを組んだゴールデンコンビの新作で主人公・みつ子を演じたのが、のんだ。
脳内の相談役「A」と共に快適なおひとりさまライフを送るみつ子を、彼女はどのように演じたのか。そのアプローチの仕方について語ってもらいつつ、“のん”という生粋の表現者に迫るインタビューをお届けします。
のんの芝居は外側に開かれている
自ら監督し、YouTubeで公開したオリジナル作品『おちをつけなんせ』(2019年)、あるいは、アニメーション『この世界の片隅に』(2016年)ならびに『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019年)でのボイスアクティングを別にすれば、久しぶりに主役として出演を果たす映画『私をくいとめて』がロードショーされる、のん。
綿矢りさの小説を大九明子監督が映画化した本作でのんは、「おひとりさま」生活を満喫する31歳OL、黒田みつ子を演じている。恋愛から遠ざかっていた彼女は、年下の営業マンとの進展に一喜一憂するが、そのたびに脳内に存在する相談役「A」と対話する。「A」について、のんは次のように語る。
「SiriやAIが、『A』みたいに、なんでもわかってくれる存在になっていったらいいな。そんなふうに想像できる存在でした。『A』は本当に、みつ子のことをわかっている。その上で、優しいことを言うし、厳しいことも言う。で、ときどき心配してくれたりもする。だから、信頼できる。めちゃめちゃ欲しい、ですね。
『A』みたいな相談役が自分の中にいるかな?と考えたら、一緒に仕事をしているスタッフが『A』のように(自分の)話を聴いてくれて、それで『A』を作らずにすんでいます。
すごくリンクしたのが、ベネディクト・カンバーバッチの(ドラマ)『SHERLOCK/シャーロック』。あの第1話で、シャーロックが車でワトソンと話しているんですけど、ワトソンが返事をすると、『しゃべらなくていい。自分の頭を整理しているだけなんだ』と言う。あれが思い浮かびました。自分の中で確信を持つためにしゃべったり、しゃべりながら発想したり。相手がいるからこそ、それもできる。シャーロックもワトソンがいるから推理できた。『A』もそういう相棒的な存在なのかなと」
みつ子と「A」との対話は、コミュニケーションであり、セッションであり、コラボレーションでもある。第三者から見れば独り言でしかないカンバセーションを、のんは卓越した演技で、唯一無二の情感へと高めている。「A」は脳内にいる。だから、みつ子は見えない相手と話しているわけだが、のんの表現は、いわゆる一人芝居には陥らない。自己完結せず、外側に開かれている。
「現場では、事前に収録していた『A』の声を出していただいていたので、ふたり芝居というか、会話をしている感覚でできていたので、あんまり抵抗はなかったです。目を合わせることもできない相手ではあるんですけど。『A』の声を出してくれる音声さんも含めて3人がかりで『A』にしている、みたいな感じでした」