「『もっともっと』と欲張りにも思ってしまう」
今年は岩井俊二監督の『8日で死んだ怪獣の12日の物語 劇場版』(2020年)での演技もすごかった。のんには、のんにしかできないことがある。そのことを、改めて強く感じた。のんにとって「いい芝居」とは、どのようなものなのだろう。
「観た人の心が、グッと作品の中に入っていける。その役を作品の一部として、その世界の中の人として、信じてもらえることが一番かなと思いますね。そこを第一関門として、そこから先は、観た人に、どれだけ感動してもらえるか。どれだけ気持ちを動かすことができるか」
──のんさんが考えている「感動」は、すごく大きなハードルなのではないですか。すごい高みを目指しているような気がします。
「あー、そうですね。自分のこと、けっこう大好きで、自信過剰なんですよ。理想が高いから、よく落ち込んじゃうんですけど。(自分では)もっとできた、と思ってたみたいで、(自分で自分に)がっかりしちゃうことが、いっぱいあるんです」
高い理想には、理由がある。
「自分なんか足元にも及ばないくらい、ものすごい演技をしている方々に囲まれて10カ月くらい撮影してたことがあったんで、もう目が肥えちゃってるんです。変な言い方ですが。目が肥えちゃってるって、上から目線ですよね(苦笑)。とにかく感覚のハードルが上がってる。
(その人たちは)積み重ねているものが違い過ぎるから、一足飛びでいけるはずがないんですけど、『もっともっと』と欲張りにも思ってしまうんです」
のんの表現は、常にジャンプを感じさせる。その根底にあるものが少しわかった気がした。
「(演技を)やる前は、やる気に満ちている。これからだ!ってときは、もう、なんでもできるような、無敵な気分なんですけど、自分でやったものを見ると、もうちょっと、こうやればよかったのかなあ……と毎回考えますね。
宮本信子さんと尾美としのりさんに聞いたことがあるんです。『もう全然、毎日、満足できなくて。そういうものなんでしょうか?』って。そしたら『満足できないから、つづけられるのよ』って! 『満足できないから、つづけられるんだろうな』って! おふたりとも。え、まだ満足してないの!?って、びっくりしたんですけど。それで、一生、こんな感じでやっていくんだろうなって思いました」