コロナ禍で作品を「届ける」ということ
『8日で死んだ怪獣の12日の物語 劇場版』は全編ほぼリモートで撮影された、斎藤工主演による同名の配信作品に追加キャストを加えた映画である。コロナの影響で仕事がなくなってしまった俳優(斎藤)が通販で怪獣を購入して育て始め、リモートで人々と交流していく様が描かれている。
岩井 『8日で死んだ怪獣の12日の物語』は、緊急事態宣言の最中に思いついて作った作品です。もともとはYouTube配信で終えるつもりだったものを、膨らませたら劇場サイズになったので「じゃあ公開しようか」と。ちょうど緊急事態宣言が解除されて映画館が再開し出してはいたものの、新作の公開が躊躇されているタイミングでした。
そこで「少しでも何か提供できないか?」と、制作サイドの利益も劇場に還元するかたちで動き出しました。ですが、行定監督も言っていたように、お客さんに「来てください」って言えないんですよ。なので、配信などの選択肢が欲しいと。劇場で観られる方は劇場で、配信がいいという方は配信で。この選択肢がないと、宣伝する上で沈黙するしかありません。「来てください」とは言えなくても、「観てください」とは言いたい。
この「観てください」という言葉を言える状況までを作りたいと思っていました。これが「届ける」ということにつながるのかな、と。それにこれまでの慣例などはありますが、緊急事態時用のルールを構築しないと対応していけません。法律にも記されていますが、緊急事態宣言が発令されると劇場は強制的に活動を止められてしまいます。でもこれは、新型コロナウイルスのために作られた法律ではないんです。これだけ世界を騒がせているのだから、もっと改良の余地がないのかと思います。でもこれは映画界の問題だけではなく、いろんな業種の方々が本当に困っています。
行定 そのとおりですよね。
岩井 映画だけに関して言えば、もうオンラインでの配信が欠かせないと思います。なぜなら、劇場が止められてしまうわけですから。ですが、そこに向き合って動こうとしている人って、そんなに多くはない印象もあるんです。静観しているというか……。もちろん、なんとか劇場で公開しようと高い意識を持っている方もいると思います。
でも映画界って、今の現役世代の人からするとインフラも含めて与えられたコンテンツなんですよね。これは映画界に限らない話ですけど、こんな社会を我々は受け入れているだけなんじゃないかっていう。誰かがうまく操作している大きな船に乗っけてもらって、どこに向かっているのかわからないけれど、「ひとまず大丈夫だよね」と乗っかっている。これはコロナ禍で浮き彫りになった問題だと思います。
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