岩井俊二×行定勲、師弟対談。これからのコミュニケーションのあり方を考える

2020.9.11


映画にとって一番重要なこと

岩井 今年は行定監督にとって「なんて試練の年なんだろう」と思います。新作が2本も出るタイミングで、コロナとかち合ってしまった。我が事のように胸を痛めています。『チィファの手紙』に関しては中国本土で2018年に公開されているので、ここで初めてお披露目するものというわけではありません。この、“初めてかどうか”というのは非常に大きい。

そういう意味で「行定監督は本当に大変な状況にあるな」と思いつつ、でもこういう過酷な時期だからこそ作品が観客の記憶により残るのではないかと、祈るような気持ちです。先に公開された『劇場』も、この『窮鼠はチーズの夢を見る』も、確実に観客の胸に突き刺さる映画だと思います。これがこの作品たちの宿命なんだろうなと。何年経っても忘れられないものになると、この子(映画)たちの運命を信じてあげたい気持ちでいます。

9月11日(金)公開/映画『窮鼠はチーズの夢を見る』90秒予告

行定 岩井さんからこのような言葉をいただけたことがすごくうれしくて、心の支えになります。今年はよい年になるはずだったんだけどな……っていう(苦笑)。でもコロナのせいにしたくないという思いも少しありますし、社会の仕組みも含めて、いろいろなものが露見する機会にもなりました。僕としては今まで以上に“作品を観客に届ける”という気持ちが強くなった。

環境がどうあれ、完成した作品は変わりません。ですが、届きにくい環境ではあります。『劇場』の宣伝のとき、「劇場に観に来てください」とは言いづらかったんです。映画館内は換気などをはじめ、感染防止策を徹底しています。ですが、ロビーは「密」になってしまう可能性がある。そもそも、ロビーに人が殺到するように映画を作っているので。では、「劇場まで足が向かない人たちのことをないがしろにしていいのか?」といったら、それは違いますよね。それぞれ家庭環境などが違ったりもします。たとえば、劇場で感染してしまい、それを家庭に持ち込んでしまうというのは深刻な問題です。

作り手である我々が、そこの人たちのことまでを考えられるかどうか葛藤した上で、『劇場』は劇場公開と配信を同時にするという試みに出ました。でも岩井さんも『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年)のときに、「バージョンは違うけど、劇場公開と配信を同時にやるんだよね」って言っていました。あのひと言が頭に残っていました。

業界の中でルールがいろいろありますが、この環境下なのであれば配信もありなんじゃないかと。作り手としては、“映画がどこの誰に届くのか?”ということが一番重要です。だから『劇場』も積極的にそのための動きをしたほうが、この映画そのものの力も試されることになるなと。そういう意味で、やはり「届ける」ということが重要です。映画は届かなければ意味がありません。

映画『劇場』予告

岩井 そうだね。

行定 岩井さんも今年は3作品も公開されるんですよね。

岩井 『ラストレター』に『8日で死んだ怪獣の12日の物語 劇場版』、そして『チィファの手紙』。2020年のこのタイミングで、3作もあるっていう(笑)。

映画『「ラストレター」』予告【2020年1月17日(金)公開】

コロナ禍で作品を「届ける」ということ


この記事の画像(全24枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

折田侑駿

(おりた・ゆうしゅん)文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿。映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを務めている。

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。