つんくが語った「何にも似ていないものを作る」方法。約2万字インタビュー&レポート(2)

2020.7.19


「こんなに明るいつんくさん、初めて見ました」

今回の取材のための僕の渡航費&宿泊代は、すべてつんくサイドが出してくれた。もちろん取材後の焼肉屋での食事代も。こういうのって大手の雑誌ではよくある話だけど、僕とかはそんな経験初めてだから、一応気を遣っておとなしくしていた。つんくのグラスが空きそうになるとビールや眞露(焼酎)を注ぐ。つんくはちょっと上機嫌みたいで、周囲のスタッフと話しながら、時折チューリップや甲斐バンドの曲を歌い出す。バンド“セブンハウス”のメンバーのひとりが僕に呟いた。

「こんなに明るいつんくさん、初めて見ました。今日は東京でのいろんなプロデュース作業から解放されてるからですね、きっと」

しかし、自分が慣れてないからなんだろうけど、これって全部、つんくが寝ずに仕事した結果のファイトマネーでおごってもらってるわけじゃん。僕って何様のつもりなんだろう……。

そんなこと言うと、きっとスタッフの方々は気を遣って「せっかく遠いところまで“取材に来てくださった”んだから」とか言うんでしょうけど、僕にしてみれば、本業が忙しいところ、わざわざ時間をさいて“取材をさせてもらった”だけでも感謝なのに、そのうえメシまでおごってもらったりしたら……。

でも、つんくを含めたその場の全員、おごる側もおごられる側も、誰もそんな考え方はしていないみたいだった。僕が世間知らずなのか!? そして、この翌日の食事の席で僕は某取材班のこんな発言を聞くことになる。

「すいません、この店で一番高い赤ワインをボトルで持ってきてください! いいのいいの、どうせつんくのおごりなんだから」

この時の席につんく本人はいなかった。レコーディングが残っていて、スタジオにこもって作業していたからだ。もし自分がつんくと同じ立場で、取材陣にこういう発言をされたら……いや、やっぱり想像できないな。僕はそんな立場になったことないから。

ゴーストライターはいない」と分かるエピソード

量産することのすごさ。僕は昔から、作品を量産できる人は無条件で尊敬してしまう。つんくの場合も、バブルガムポップ、ハウス、歌謡曲、モータウン、演歌、ボサノヴァ、ディスコなどなど、さまざまな曲調の作品をものすごいペースで作り続けている。

本当言うと僕は今回日本を出発するまで、「つんくさん、本当に全部自分でやってるんですか? ゴーストライターがいるんじゃないですか?」とか、意地悪な質問をしようと思ってたんだけど、結局はやめた。わざわざ質問しなくても、ちょっと密着してつんく本人に接しただけで、答えは明らかだったからだ。

つんくは間違いなく、全部自分の手でプロデュースワークをこなしている。しかも、常人には信じられないくらい(まるで減量中のボクサーと同じくらい、と言ってもいいかもしれない)自分を追いつめながら。

それが分かるエピソードその1。東京にいる間はあまりにも忙しくて今回のレコーディングの詳細を詰める時間がなかったので、つんくはロンドンまでの飛行機の中で、CDウォークマンでビートルズの曲を片っ端から聴いて、そこでやっと今回の大まかな候補曲を選び出した(そこから曲目が最終的に絞り込まれたのは実際にスタジオに入って以降)。

エピソードその2。焼肉屋の席でつんく本人から聞いた話。2年ほど前から白髪が多くなって、現在は髪を染めている。今ではそれをすべて落とすと、つんくの髪は「藤本義一みたいな状態」になってしまう。

このふたつのエピソードだけで十分でしょう。どちらも僕は聞いた瞬間に絶句してしまった。そして「このつんくの余裕のなさは一体何なんだろう?」と、ロンドンにいる間中、ずっと考えていた。

今の僕が出した結論はこうだ。きっとつんくはおそろしく知的なんだと思う。知的だからこそ、いつも不安と闘わなくちゃいけないというか。次から次へと仕事を増やし、プロデュースしなきゃいけないユニットを抱え込むのは、きっとつんくの“知的だからこそ抱えてしまう危機感”のせいだ。でも、それがかえって扶養家族を増やし、眠る時間を削り、つんく自身の肉体を追いつめていく。ある意味、どんどん自分から厳しい方に向かってるというか。でも、それを誰が笑える? 少なくともこれまでの局面を才能とガッツで切り開いてきたのは、他でもないつんく自身なんだから。

一生ロックと共に生きていくために


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北尾修一

(きたお・しゅういち) 百万年書房の中の人。1968年、京都府生まれ。株式会社百万年書房代表取締役社長。百万年書房

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