つんくが語った「何にも似ていないものを作る」方法。約2万字インタビュー&レポート(2)

2020.7.19

ひとつでも手を抜いたら、たぶん全部終わってまう

――じゃあ2番目。「アイドル歌謡として機能し続ける精神」

つんく ああ、なるほどね。そこはやっぱり、みんなできないんじゃないですか。すごい難しいジャンルなんですよね。

――僕、先日、T&Cボンバーのラストアルバムを聴いたんですけど。シングルカットされた曲以外も異様に完成度が高いというか、凝って作られてますよね。悪い言い方をすれば、シングル曲が何曲か入ってさえいれば、あとの曲は手を抜いたっていいじゃん、売り上げ的には変わらないでしょという発想も……。

つんく ああ、普通はそうでしょうね。

――そう。名前は挙げないけど、そういう人もいるじゃないですか。で、これは最初の話につながるんですけど、なぜつんくさんはワーカホリックというか、そこまで手を抜かないのか。

つんく うーん……だから、僕の個性はそこで出ると思ってるんですね。シングル曲にはちゃんとシングルなりのパワーが欲しいし。「どうせ解放するアルバムやから適当にやれば」とみんなに思われるかも知れないけど、それはやっぱり許せないんですよ。僕の中で。

――というか、他の仕事も含めて、どれも全然手を抜かずにやってますよね。

つんく ええ。それをやってしまうと、たぶん全部終わってまうんですね。だから面白いんですよ。

――それって当然お金のためではないですよね。

つんく まあ、それは違いますよね。

――それこそもう、一生食うに困らないくらいのお金は手にしてるわけじゃないですか。

つんく いやいや、そんなことはないですよ。それはね、みんなそう思ってるかも知れないですけどね。日本の税率上の問題があって。一生食おうと思ったら、たぶん日本では無理ですね。1000万枚のシングルヒットが出たとしても無理だと思うんですよ。たぶん3年でなくなると思う。だから宇多田ヒカルも仕事するし、Mr.Childrenも仕事すると。

自分の芸術をぶち壊す勇気

――(笑)。3つ目いきます。「女の子を愛する精神」

つんく うーん、どうなんですかね。男か女かっていうのも、たぶんないと思うんですけど。面白いのはモーニング娘。のプロデュースを始めた時は、逆に「女の子のプロデュースができるのか?」って言われたんですよね。「おまえに女の子の何が分かんねん」って。やっぱり結果が出たから世間にそういう印象を与えてるのかなって気がするんですけど。

――ただ、女の子に提供した曲の歌詞は、毎回すごく面白いんですけど。つんくさん独特のセンスをすごく感じるというか。

つんく 僕はやっぱり女の子には絶対なれないから。男の立場として、こんな女の子でいてほしいって願望があるじゃないですか。それが案外ハマってるのかなって気がするんですけど。ちょっと恥ずかしいくらいのことを書いて、それがちょうどいい刺激なんでしょうね。

――これは松本亀吉さんも挙げてましたけど、たとえばプッチモニの「愛という字を 思い出す時 家族の顔が先に 浮かんできたぞ」って。僕、自分の頭をどれだけひっくり返してもこんなフレーズ絶対に出てこない(笑)。脱帽しました。

つんく それはでも、嬉しいですね。で、逆に言うと、僕はプッチモニをロックだと思うんですよ。

――たしかに。

つんく あれは語尾を「だわ」とか女の子っぽくしてるけど、たとえばあれを英語に直したら、すごいラブ&ピースな歌詞だと思うんですよ。

――時間もないんでどんどんいきます。4つ目「ファンキーであることを自覚し続ける精神」

つんく そうですね。やっぱり昔から僕が聴いてきたディスコミュージックって、案外「AHA~」っていう言葉がキメの部分にボコッと入ってるだけで、もう、歌詞も何言ってるのか分からないけど、その瞬間のためだけにワンコーラス聴けたりするじゃないですか。それがファンキーミュージックの基本だと思うんですね。そういう“曲のおおよその成分”とは違う、ほんま1%未満の部分にこだわってみるという。それを僕は“ファンキー”と呼んでるんです。ビートルズの言う“ロック”も同じことだと思うんですけど。

言葉を変えれば「自分の芸術を自分でぶち壊す勇気」っていうかね。それはすごい大事だと思いますね。たとえば今回で言うと、僕が今ディスコミュージックのカバーアルバムを作るよりは、ビートルズのカバーアルバムを作った方が面白いですよね。

――よりファンキーですね(笑)。たしかに。

つんく うん。「あいつアホやなあ」っていう。それも含めてね。

何でも“ほんのちょっと多め”がちょうどいい

――あと、これはさっきの質問とも重なってきますけれども、5つ目は「流行音楽で実験し続ける精神」

つんく そうですね。それは大事ですよね。

――ビートルズが正にそうでしたけど。

つんく ビートルズもそう、すごい最先端だったじゃないですか。だから、さっきの話に戻ると、奇抜さを狙って人の流れに逆らって歩くのは目立つけど、それはたぶん人が手を出さないもんだと思うんです。要するに、お財布を紐解いて買おうという商品にはならないと思う。同じ流れの中で、いかにすり抜けて行くかっていう、そこのサジ加減なんですよね。それがなかなか分からない(笑)。それが毎回分かったら、毎回ヒット曲出してますよ、俺。

――でも、今のところ打率はかなりのものじゃないですか。つんくさんの中にきちんとした基準があるんじゃないですか? 言葉にはしづらいかもしれませんが。

つんく いや、でも、やっぱりドーンとでかいヒットは1年に1発あるかないかでしょう。ほんとは3年に1発だと思うんですよ、僕は。ビートルズもやっぱり、きっかけとなるような(ヒット)曲は2~3年に1曲で。いい曲とか名曲とか言われるのはいろいろあるけど、“ヒット曲”という人の心をえぐり取るようなものっていうのは、誰でもそんな書けないですよ。

――ただ、はたから見ていて思うのは、そういう時って、つんくさんは絶対に安全株を買う方には行かないですよね。

つんく 絶対行かない。でも、それも結果ですけどね。最初はこっちに行こうと思ってるのに作っていくうちにどんどん引き戻されたりとか。で、結果、トゥーマッチだったり少し足りなかったりでその都度後悔とか反省もするし。「次はこうしよう」とかは、いつも思いますけどね。

――そのサジ加減で、常に基準にしてるポイントとかはないんですか?

つんく いや、それは分からないです。ただ、ちょっと足りないぐらいじゃダメなんですよ。絶対。何でもほんのちょっと多めがちょうどいいんです。ただ、「ちょっと多めがええねん」と思って作ったら大抵はめっちゃ大味になる。これが微妙。

――(笑)。

つんく ほんのちょっとだけ多め。関西のうどんと同じじゃないですか、やっぱり。

「ヒット」は、答え見るまで誰にも分からない

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北尾修一

(きたお・しゅういち) 百万年書房の中の人。1968年、京都府生まれ。株式会社百万年書房代表取締役社長。百万年書房

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