つんくが語った「何にも似ていないものを作る」方法。約2万字インタビュー&レポート(2)

2020.7.19

取材後記:つんくとは何者なのか

というわけで、前ページでつんく取材の「公式レポート」は終わりですが、もう少しだけ書かせてもらいます。ここからは第2部、取材後記です。で、僕の感想を綴る前に、まずはこの文章を読んでおいてください。先日出版された、つんく自身の著書からの引用です。

「この1年位俺はめちゃ音楽中心の人生を送っている。今の環境は音楽に携わるありがたい環境であって、俺もそれを望んでいたのにストレスが一杯だ。人は「良かったね、売れて」と言ってくれるがやっぱ素直に喜べない。だって俺みたいな庶民がいつまでもこんないい時間が続くと思えないからだ。でも「じゃ音楽やめれば?」ってそれは絶対無理だ。俺は音楽、つまりロックをめちゃ愛している」

『つんく愛の営業方針―心のトレーニングしようよ!』より
『つんく愛の営業方針―心のトレーニングしようよ!』講談社/2000年
『つんく愛の営業方針―心のトレーニングしようよ!』講談社/2000年

僕が実際に会ったつんくの印象を一言で言うとすれば「ボクサーみたいな人」。これに尽きる。ずうっとファイティング・ポーズをとり続けてる人というか、よく疲れないなというか、自分だったら絶対に耐え切れないだろうなというか。とにかくいろんなことを考えさせられてしまった。

先のインタビューで、僕はしつこく「なんでそんなに働くんですか?」と子供のように質問し続けたけど、5日間つんくと一緒に過ごして、自分なりに確信したことがある。つまりそれは、

「つんく本人にそういう質問をしても意味がなかったな。だって、もともとそういう仕組みで出来ている人なんだから」

としか言いようがないというか、そういうこと。だって、ボクシングの世界王者に「なんで殴り合うんですか? 痛いでしょう」って言っても、その人はベルトを奪われるまで闘いを辞めないに決まってるし、そんなこと言うだけムダじゃん。つんくもそれと一緒なんだ。今のままの運動量を維持し続けること、それがつんくの考える、“ロック”なんだ。そして、本人はそのことに対していささかの躊躇もない。僕はその気迫に圧倒された。

先の取材が終わった後、つんくは、僕も含めた40人以上のスタッフと一緒に焼肉屋で食事をした。幸運にもつんくの真向かいの席に座ることができた僕は、その場で、結婚する予定はないのかと冗談まじりに聞いてみた。あと2~3年は(結婚は)ないでしょうね、このままやれるところまでやりたいから、とつんくは言った。

ちなみにその日は、僕ら取材陣に気を遣って一緒に食事してくれたんだけど、前日のつんくの夕食はホテルの部屋でマクドナルド。その日の朝は近所のコンビニで買った寿司パック。昼はラーメン&ギョウザ。

ウソみたいな話だけど、これがつんくのロンドンでの食事だった。

つんくの才能と覚悟の正しさ

つんくが現在やっている仕事って、本当に厳しい闘いなんだろうなと思う。つんくは(いわゆる)音楽マニアに向けて作品を作っていないわけで、彼が作品を投げるのは、たとえばカラオケボックスに象徴されるような、ものすごく気まぐれで正体のよく分からない“マス”だったりするわけだから。

これは余談だけど、先日、編集部の近くの定食屋に入ったらAMラジオが流れていて、パーソナリティの(たぶん)落語家のところにリスナーのおばさんが電話をかけて人生相談をしていた。塩サバ定食を食いながら聞くともなしに聞いていると、相談の内容はこんな感じだった。

「自分は小さい頃から中村雅俊そっくりの顔で、そのせいでイジメられてたんだけど、生まれた娘もなんと雅俊そっくりで、このままでは娘は(以下略)」。僕は聞いて笑いながらメシ食ってたんだけど、そのおばさんはとても真剣な様子だった。

そこでふと妄想したんだけど、たとえば僕が「次号の本誌を、このおばさんが読んでも面白いものにしろ」と注文されたとする。僕だったらそんなの完璧にお手上げだ。自分も納得のいく内容で、なおかつこのおばさんにも喜んでもらえる雑誌を作る。もちろん、いつかそんなことが出来ればいいなとは思うけど今の自分には……ねえ。でも、つんくがやってるのはそういうことでしょう? 

そういうおばさんにも作品を届けようという意志と、実際にそれを成功させるスキル。しかも、そういう作業って言い訳が一切きかないじゃん。たとえばだけど、自分の作品が売れなかった時に、つんくが「いや、自分がやってるのは先端的な芸術だから」とか言っても、そんなのみんなに笑われて終わりでしょ。

そして、もちろんそのことを、つんく自身が誰よりも理解している。そして、自分の意志で、その位置に踏みとどまり続けている。

ここで「そんなのつんく自身が選んだ道じゃん、知らねえよ、自業自得だろ」と言える人はすごいと思う。いや、別に、つんく以外の誰も責任をとる必要なんてないんだから、無責任にそういうことを言う自由も僕たちにはあるんだろうけど、少なくとも実際につんく本人と話してみて、僕はそんなこと絶対に言えないと思った。でも、きっとつんく本人は笑ってこう言うだけなんだろうけどね。

「まあいいんですよ、人に何を言われても。自分でそういう道を選んでるんですから」

そしてこれまでの結果(数字)は、つんくの才能と覚悟の正しさを実証している。

取材後の焼肉屋で聞いた「こんなに明るいつんくさん、初めて見ました」

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北尾修一

(きたお・しゅういち) 百万年書房の中の人。1968年、京都府生まれ。株式会社百万年書房代表取締役社長。百万年書房

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