つんくが語った「何にも似ていないものを作る」方法。約2万字インタビュー&レポート(2)
今から遡ること20年前の、2000年9月。つんくはビートルズのコピーアルバムをレコーディングするためロンドンに向かう。当時の『クイック・ジャパン』編集長・北尾修一は取材のために同行し、限られたインタビュー時間の中で、事前に用意していた「つんくの魅力を形作る“6つの精神”」を本人にぶつけることにした。
さまざまなジャンルを横断した楽曲をハイペースで作りつづけていたつんくは、何を目指して走っていたのか。5日間を共に過ごしたことで見えてきた、その断片とは? WEBで初公開となる、約2万字に及ぶインタビュー&レポートの後編。
※本記事は、2000年12月1日に発売された『クイック・ジャパン』Vol.34掲載のインタビューを転載したものです。
※つんくが「つんく♂」に改名したのはこの記事の掲載後のため、ここでも改名前の表記で掲載しています。
目次
摩擦が起きても、逆らうことが快感になる
――ここでちょっと話を変えたいんですけど。僕、今回の取材にあたって準備をしてきたんです。というのは、知人のライターで松本亀吉さんという、昔から「つんくは偉大なミュージシャンだ」と大声で言い続けてる方がいて……。
つんく ありがとうございます。
――その方が考えるつんくさんの魅力を箇条書きにしてもらったものを、ここに持って来ているんです。ちょっと上から順番に挙げていきますので、それぞれについてご本人がどう思うのかコメントしてもらっていいですか?
つんく その人はやっぱりアレですか、基本は音楽が好きで聴いてくれてるんですよね。
――完璧にそうです。
つんく 男ですか?
――男です。残念ながら。
つんく いやいや。嬉しいです。
――じゃあ順番に上から言います。まず「何にも似ていないものを作ろうとする精神」。
つんく ああ、そうですね。僕、ほんまパクリって言われても、全然腹立たないんですけど。でも、ほんまにパクってるヤツっていっぱいいるじゃないですか。フレーズパクリとか、サンプルパクリとか。僕はいつも、絶対似てないようにしてやろうと思うんですよ。ほんとに。
――まあ立ち位置ってことで言ってしまえば、今のつんくさんに似たスタンスの人って古今東西絶対にいないだろうって気がしますけど。
つんく まあ、僕自身はね。僕みたいなヤツはいないんですけど。サウンドでも、いっつも絶対似てないようにしてやろうと思ってるんですよ。でも、人間ってほんとに不思議なもんで、誰かが絶対にそれをイヤがるというか、一人で浮いてることはすごい許せないんですね。心の中で絶対に「誰かに似てる」って言いたくなるんです。僕もさんざんそうやって言われました。ほんと強引に。
――逆にそこで、つんくさんの中に、“フォロワーがいない寂しさ”はないんですか?
つんく みんなそうだったと思うんですよね。オリジナリティのあるヤツらって。
――そういうことは最初から気にしない?
つんく それ気にしてるヤツは、たぶんこんなこともあんなこともやってないでしょう。
――(笑)。
つんく 要するにあれでしょう。僕、初めて東京に来た時に思ったんですけど、京王電車の地下通路って、みんな同じ格好して目線合わさないようにうつむいて歩いてるんですよ。僕、新宿の駅降りた時にビックリしてね。でも、3年ぐらいしたら僕もそうなってるんですよ、知らんまに。「あ、こんなことではいけない」と思って。
それで、これは大阪人根性かも知れないですけど、たとえばエスカレーターでも、左側は人が止まってて、右側は急いでる人のための歩くスペースだとしたら、僕はその真ん中を歩いたろうと思ってね。そういうスピリッツをなるだけ忘れんようにしようと思ったんですけど。
――でもそれ、すごく摩擦が起きますよね。
つんく そう。でも、しばらくすると真ん中でもなく端っこでもなく自分の歩く道があることに気づくんですよ。最初は逆らうことで快感を得るんですけど、それだとただの目立ちたがり屋と変わらないんですよ。やっぱりイギリスにもルールがあって東京にもルールがあって、ルールの中でいかに正しい結果を出すかっていう。だから、みんなが黒を着てる中で黄色を着て目立つんじゃないやり方があることが分かってから、ヒット曲が出せるようになりましたね。
『ズルい女』ってヒット曲を出した時も、ほんとギリギリセーフだったんですよ。ただ奇抜じゃなかったんですよ、やっぱりどっかで。そこのギリギリセーフを探し出さないと、ヒット曲は出ないと思うんですよ。『LOVEマシーン』もそうですけど、ただ正反対に、いきなり人の裏側やったら人は避けて通る。「危ないヤツやな」っていう。それを判断してる自分がどっかにいるんですよね。言葉で説明できないですけど。
――で、その勘が今回は「ビートルズのコピーをしろ」という指令を……。
つんく いや(笑)。ビートルズはね、もっと気楽ですよ。もうほんと気楽にやってます。