つんくが語った「何にも似ていないものを作る」方法。約2万字インタビュー&レポート(2)

2020.7.19


「ヒット」は、答え見るまで誰にも分からない

――じゃあ、最後です、6つ目。これはどう思われるか分からないですけど……「あくまでも吉本興業っぽさを失わない精神」

つんく 何やねんそれは(笑)。ただ、吉本興業なんかで人気が出るグループっていうのは、常に時代の匂いを見ながら流行語にしろギャグにしろスタイルにしろ考えてるわけで。もうほんとロックと同じ。これはすごいですよ。あんな組織はないと思いますね。ヤスキヨにしろ、あんなどっちがツッコミか分からないスタイルは、当時なかったわけですから。今だとダウンタウンということになりますけど。客に媚びないっていう。それまでの漫才だとお客さんに「はい、どうも~」って言ってたのが、「イヤやったら帰れ」って言うのはなかった。これ、ロックですよね。

で、また、それがあってのナインティナインって感じで。今度はスーツを着た若手が出て来たっていう。あいつら、ずっとスーツ着てたんですよ。ダウンタウンがジーパンで出て来た後、みんなジーパン履いてたところにナインティナインはスーツ着て漫才始めて。おい、このご時勢にスーツって、そんなこと考えつくヤツがいるんだなっていう。それがロックかファンキーか分からないですけど、なんか破壊的ですよね。やっぱりね、みんなできないですよ。人の答え見たら「なるほど」って言えるし、「あんなん誰でも出来るがな」と言えるんです。でも、答え見るまでは誰も分からない。それが僕の考えるヒットやと思うんですけどね。

まるで「何かを証明する必要もない」と言うように

ここで唐突だがインタビューの時間は終了してしまった。実は、今回のロンドン滞在中もつんくのスケジュールは本当にタイトで、取材時間は45分しかなかったのだ。

この後、一緒に食事をする予定になっていた僕は、席を立つ際につんくにこう声をかけてみた。「じゃあ、これからみんなで食事に行くみたいですけど、飲んじゃって大丈夫なんですか? 明日録る曲もまだ決まってないんですよね?」

ここまでの話を終えた時点で、僕はつんくがとてもクレバーで、なおかつ度胸の座った人物だということは諒解していたので、たぶん余裕の返事をかえすんだろうなと予想はしていた。はたして、つんくは本当に落ち着いて、僕にこう答えた。

「いや、今回はほんと深く考えてないんですよ。ビートルズだって、たとえばアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』は2日間で録ったっていうから、まあそれぐらいでできるんじゃないですか? すべては明日、アビー・ロード・スタジオの匂いかいでみてからですね」

そのセリフには、毎日闘ってる人だけが持つオーラが漲っていた。まるで「俺は明日からもやりたいことをやるだけですよ。今まで話したことも別に理解してもらえなくていいし、そもそも誰かに対して何かを証明する必要もないし。俺はただ、自分のやりたいことをやってるだけです」と言っているようにも見えた。

なんか僕らしくないかっこつけたシメになってしまいましたが、でも、本当にそう思ってしまったんだからこの場合しかたがない。

取材後記:つんくとは何者なのか


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北尾修一

(きたお・しゅういち) 百万年書房の中の人。1968年、京都府生まれ。株式会社百万年書房代表取締役社長。百万年書房

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