大阪生まれ、大宮育ち。すゑひろがりず「人気ゼロ」から15年目の大逆転<シリーズ大宮セブン#1>



今の人気は地球全体からイジられてるだけ

徹底して探し、一度は捨てた「個」。それを8年ぶりに再び拾い上げたとき、『M-1グランプリ2019』決勝進出という、本人たちの想像以上の展開が訪れた。小鼓の響きと共に登場した異端の(実は漫才の発祥に忠実な)ふたりは大会で末広がりの8位という結果と共に大きな爪あとを残し、それが年明けのYouTubeでの爆発へとつながっていく。

M-1決勝には「行けるなんて思ってもなかった」と三島。でも鼓を置くことは考えもしなかった。南條「もしこの形で行けたらそれだけで勝ちやと思ってた」
M-1決勝には「行けるなんて思ってもなかった」と三島。でも鼓を置くことは考えもしなかった。南條「もしこの形で行けたらそれだけで勝ちやと思ってた」

——最近はテレビ番組からのオファーも増えているかと思いますが。

南條 昔はロケなんて「どうやったらいいんやろ、絶対に無理や」と思ってたんです。でも「バイオハザード実況」の「進んだ先で遭遇したモノについてなんか言う、説明する」感じって、ちょっとロケやってる感覚に似てるんですよ。だから以前ほどは悩まなくなりました。知らん間に鍛えられてるなとは思います。

三島 YouTubeが練習の場になってんのはありますねえ。僕はもう、テレビで顔を知っていただいて、お正月にたくさん営業に呼ばれたら、全員に喜んでもらえる芸人になれたらって。それが夢です。

南條 僕らふたりとも器用じゃないんで、いろんなことを同時にはできないですけど。劇場、営業、テレビ、YouTube。この4つをきっちりできたら。

——今年もM-1に出場を?

南條 もちろん。

三島 恥だけはかかんように。今やっと、賞レースのネタと、劇場や営業でやるネタが一緒になってきたんです。

南條 それ、一番いいな。

三島 トレンディエンジェルさんとか観てると、M-1のネタも劇場のネタも同じで、どこでも笑い取れる。やっと今、僕らもそれっぽくなりつつあるかなっていう。

南條 まだ全然ですけど、ちょっとずつやり方が定まってきたんかなという感じはします。

「思えば、伝統芸能風を見つけるまでもがいたあの時期がちょっとは役に立ったのかも」と南條
「思えば、伝統芸能風を見つけるまでもがいたあの時期がちょっとは役に立ったのかも」と南條

——今の状況であれば、かつては集客に悩んだ単独ライブも大盛況なのでは?

南條 まさに今、やりたいんですけどねえ。でもできたら満席の状態でやりたくて。

三島 まだ客席も間隔空けなダメですし、舞台上で近寄ることもできなくて(取材はアクリル板を挟んで漫才をしていた時期)。どうせなら近くでちゃんと漫才したいし。だから、世界が元どおりになったらやりたいですねえ。

南條 世界が元に戻るのが先か、俺らが消えるのが先か。コロナとの違う戦い方してるんです。

——おふたりは今の人気に対してずっと懐疑的ですね。

南條 それはもう、すごい思ってます。

三島 こんなんうそです。幻、幻。こんなわけないですもん。

南條 ずっとなんか、ひろーい地域からイジられてるみたいな。

三島 はははは!

南條 地球全体からイジられてるんちゃうか、って思ってる。喜ばしといて、「ああ、喜んでる喜んでる」って。

三島 うん、「かつぎ上げて落としたろ」って感じですよ。たぶんずっと信じれないです。泥すすってきた期間が長過ぎたんで。

南條 14年分飲んできた泥が体内に残留しちゃって、たぶんそれは一生消えない。

——とはいえ、一方的にイジられていたという大宮の劇場での立ち位置には、変化があるんじゃないですか?

三島 大宮のメンバーには「お前ら、どうイジっていいかわからへん」って言われますね。

南條 こっからはもう、復讐劇が始まりますね。思いっきりイジってやりたい。

三島 はははははは! 牙を剥いてやろうと?

南條 1回は仕かける側に回ってみたい。今までさんざんイジられてきたGAGの福井さんとかを、僕らのホームの状態で思いっきりイジりたいなあ。

三島 倍返しや。

南條 どうせそこでもアラが出て、結局イジり返されるんでしょうけど(笑)。

すゑひろがりず
左/南條庄助 右/三島達矢

すゑひろがりず
小鼓担当の南條庄助と扇子担当の三島達矢によるコンビ。NSC大阪28期の同期として出会う。2008年よりトリオでの活動を経て2011年春、コンビとなる。2012年から「伝統芸能風」ネタをやるようになり、2014年に東京進出。2019年、『M-1グランプリ』決勝に進出。南條は『R-1ぐらんぷり2020』決勝で3位に。

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釣木文恵

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

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