「写真への気持ちが明らかに変わった」
――それはおふたりならではの関係性ですね。一転して、出産後の写真は明るいイメージです。
桑島 安達さんの変顔がだんだん目立ってくるね。
安達 私もそれ思った! すごい変顔してるよね(笑)。テンション上がってきたのかなぁ。あともう泣かないよね。ほぼ。
――涙がなくなった理由はなんでしょう。
安達 単純に子育てが楽しいっていうのもあると思うし、仕事が順調っていうのも大きいと思うし。あとは……。
桑島 僕の失態に関して寛容になったっていうのもあると思う。
安達 なんか、もういい加減この4年間で、「これだけ言っても変わらないんだから、変わらない」みたいなのがわかって。いちいちイライラしてるってすごい無意味だなぁって、納得できるようになったんだと思うんですよね。でもちょっと前に「君には寛容さと許しの心が足りない」ってすごい言われて。
――ええ!
安達 それはさすがにブチ切れたんですけど(笑)。
桑島 はい。
安達 でもまあ昔に比べたらだいぶ「自由に写真を撮ったらいいんじゃない?」という気持ちになっていると思います。
――安達さんはずっと撮られつづけるなかで、写真に変化を感じますか?
安達 出会ったころとは全然違うと思いますよ。昔は「こうやったらおもしろい」みたいな、意識して実験的な撮り方をしている時期もありました。一緒におもしろがれたから、それがよくないとかではないんですけど。
桑島 昔、葉山にご飯に行くつもりが全部撮影になって、宿に戻ったのが午前2時とかあったね。最後すごいぐったりしてて。
安達 あははは。
桑島 芸術のためなら家族も殺す、じゃないですけど私生活を撮る上で関係性はイーブンであるべきなので、今はもちろんそんな撮り方はしていません(笑)。
安達 この人にとっては写真が一番だから、そういう人にいつも撮ってもらえるっていう環境は幸せだなあとは思いますよ。
桑島 おかげさまで自信がつきましたし、「ここで今撮ったほうがいいな」っていう勘みたいなものも養われました。今はちゃんとその人を見て撮ってるっていう感じが強くて、写真への気持ちは明らかに変わりました。
夫婦には、みんなそれぞれに物語がある
―― 『我我』を通して、おふたりが表現したいことはなんでしょうか。
桑島 単純に「私たちがいたことを残していく」というのがひとつあります。本になると、肉体は滅んでもある程度のところまで残っていくと思うので。あとは……みんないろいろあって大変だけど、生きてればなんとかなるっていう。死んだら終わっちゃうから。
安達 死んだら終わり。しょっちゅう言うよね。
――生きてなきゃだめだと。
桑島 そう。生きるって楽しいけど大変だよね、大変だけど楽しいよねって。普段誰かに見せている写真って「口当たりがいい写真」じゃないですか。でも実生活はそうではない。すごい怒られたりとか、泣いたりとか実際あるし。でもそうなっても結局いいし、だいたいみんな同じだと思うよ、ということを提示できたらいいんじゃないかなって。
安達 私のWEBサイトを見て「幸せで穏やかな夫婦」っていうふうに思ってもらってるんですけど、それってちょっと……くすぐったい、完全な事実じゃないと感じてて。私たちの写真は、ひとつの夫婦のお話でしかなくて、みんなそれぞれに物語がある。これがすべてじゃないし、それぞれがそれぞれの物語を生きている、っていうのがこの本を見てわかる。そんな気はしました。私自身、桑島さんに写真を撮ってもらうまで、「自分って本当につまらない」って思ってたんですよ。でも写真を見て、そうじゃないかもしれないっていう可能性を見出せたから。そのように感じてもらえたらいいなと思いますね。
桑島智輝 写真展 「前我我後」
写真集『我我』の撮影期間中の未発表作品や、タイトルどおりその「前後」の日々を追加した、419点の写真を展示。俳優という、被写体としてこの上なく強固な“イメージ”に徹底的に抗い、剥き出しの人間性を引き出すことに成功した写真家・桑島智輝の“表現の新境地”ともいえる展覧会。
開催期間:7月12日(日)まで
会場:GALLERY X(渋谷パルコ地下1階 / 東京都渋谷区宇田川町15-1-B1F)
営業時間:11:00~21:00
※新型コロナウィルス感染拡大防止につき変動の可能性があります。その場合は渋谷パルコの営業時間に準じます。
入場料:600円(税込・入場特典有)
※事前予約制
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