ジャニーズが牽引するコロナ禍のYouTube。テレビ復権のチャンスは今秋の新サービスか?

2020.5.27

テレビに復権のチャンスはあるのか?

コロナ禍だと、テレビは過去の秘蔵映像の総集編やネタ番組やお笑い系の番組が好調みたいですね。YouTubeはライブ配信文化が盛り上がってきています。5月の後半にもなるとテレビもYouTubeも多くの映像が同じようなリモート収録の画面になっていて、最初のころはそういう工夫を楽しんでいましたが、新鮮味はなくなってしまいましたね。『ヒルナンデス』とかは、毎日実験があって楽しいんですが。大勢の人が出るような番組はリモートが続くと思うので、そこは難しいですよね。

テレビがそれをやると、どうしてもクオリティが下がったように見えてしまう。YouTubeだと許されるんですけど。

キャスティング的にも企画的にも、テレビはYouTubeに勝てなくなってしまったのでしょうか?

YouTubeに大物芸能人が参戦してますけど、やっぱりテレビはすごいです。大きいお祭りはテレビにしかできないですよね。僕は軸としてお笑いが好きなので、そのプラットフォームがどこだとしても観るんですが、クオリティでいうとテレビにはまだまだ敵わないんじゃないかなと。

たとえば『M-1グランプリ』のような番組は現状だと、YouTubeでは作れない規模のものだったりするし、ドラマもバラエティももちろんYouTubeよりお金がかかってるしクオリティが高い。今年の秋に始まる予定という、民法キー5局によるネット同時配信が始まったら、また状況が変わりそうですよね。

※テレビ番組を放送と同時にインターネット配信するサービスが準備中であることが報じられた。スタートは今秋以降の予定。NHKはすでに試験運用を始めている。

大きく変わるし、テレビにとっては貴重なビッグチャンスだと思う。よく「テレビはつまらなくなった」と言われるけど、それは視聴率偏重の方針や高齢者層をターゲットにした番組の増加とか、いろいろ原因はあって。でも、作り手の本質的なポテンシャルとしては、おもしろいものを作れる人がたくさんいる。

今はテレビを観る時間がスマホを観る時間に奪われてる状況なので、テレビもスマホで観られるようになると、人の可処分時間の配分が変わる。スマホ視聴の若い層向けの番組がカギを握るかなと。同時に、YouTubeも変化を強いられるでしょうね。

横並びで同じコンテンツとして観られるようになるでしょうからね。時間を奪うものとしてテレビとYouTubeはライバルですけど、コンテンツとしてはNetflixのほうが脅威だと思います。韓国ドラマがここまで若者に流行るなんて、コンテンツの観やすさとクオリティの高さを証明していますよね。

YouTubeはタダで観られるし、制作にお金がかかってないぶん身近に接することができる。Netflixはお金を払わなきゃ観られないけどクオリティが高い。それでいうと今のテレビの立ち位置はちょっと難しくて。Netflixほどじゃないけどお金がかかってて、質の高いコンテンツがタダで観られる。でも決まった時間にテレビの前にいなければならないという強烈なストレスがつきまとう。スマホに参入して、場所のストレスが解消されたときにどう変化するのかがまた楽しみですね。

芸能人がYouTubeに多く参入する一方で、『水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)』がスタートしたり、YouTuberがテレビなどのメディアに出演する動きも活発になってきたように思います。この逆転現象についてはどうお考えでしょう?

トップYouTuberたちは5年以上、YouTubeで動画を上げつづけているので自分たちのキャパでできることの限界は少なからず感じてるかもしれない。だから次の話題を作るか、キャリアアップするかって考えるとやっぱりテレビとかラジオで今まで接してなかったお客さんを呼び込もうって考えるでしょうね。

そのなかで水溜りボンドさんは、もともと学生芸人をやってたこともあってお笑い、芸能界へのリスペクトもあるし、おしゃべりも上手ってことでラジオが決まったんだと思います。そこまでのすごいYouTuberが今後はそう現れないんじゃないかなと。芸人として鍛えられているというのが人前だとカギになりますね。フワちゃんやガーリィレコードさんのように、YouTubeで話題になって出てくる芸人は増えていくと思います。

今は元芸人とかお笑いをかじってた人とか、ハイブリッドな人がテレビ・ラジオに進出してる状況ですよね。ただ生粋のYouTuberさんは、テレビで求められるトーク力にどうしても不安がある。YouTubeでは極限まで間を詰めた速い編集で成立するしゃべりになってるので。でも影響力はすさまじいから、そういったスターを起用して番組を作れるのか、テレビマンの力も試されてくるのかなぁ。

1年前くらいかな、テレビでトップYouTuberたちを集めて番組をやろうってなったときにオファーしたらほぼ断られたんですよね。もはやYouTuberはテレビに出るメリットがないっていう。

YouTuberと多く接してても、「テレビに進出したい」っていう思いはあんまり伝わってこない印象です。自分で好きなようにできるメディアを持ってるし、テレビが押し出す個性と本人がアピールしたいものとのズレがあったりすると、どうしてもテレビにはうしろ向きになってしまう。

テレビ制作者側は、これまでそういう人種とあんまり立ち向かってこなかったんですよね。従来のタレントさんは、テレビが要求するだいたいのことを飲んでくれてたと思うので。

「誰をキャスティングするか」ってテレビが選ぶ時代から、逆に「自分がどこに出るか」ってタレント側が選ぶ時代になってると思います。テレビだとまず企画があって、その企画に合うインフルエンサーを起用するという流れですよね。でもYouTuberさんからしたら、そこでテレビ側との意識のズレがあるかもしれない。だから、最初から“YouTuberさんありき”での企画を作ることができれば、もしかしたら出演するメリットを感じてくれるのかもしれないなって思います。

ほんとそのとおりだよね。僕も何度も企画書を書いたけど、テレビの編成の方にはなかなか刺さらなかった……。でも、コロナで状況も考え方も変わってきてる。YouTubeをどっぷり観てきたような20代の若手局員が現れて、「こうやればおもしろいです!」と企画を通すことができたら新しい流れが生まれるかも。テレビとYouTubeの横断が当たり前になれば、どちらもより素晴らしいコンテンツを生み出していけると思う。だから若手のテレビマンは今の状況をチャンスと捉えてもらって、一緒にがんばれたらいいなとも思ってます。

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原航平

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原 航平

(はら・こうへい)ライター/編集者。1995年生まれ、兵庫県出身。映画好き。『リアルサウンド』『クイック・ジャパン』『キネマ旬報』『芸人雑誌』『メンズノンノ』などで、映画やドラマ、お笑いの記事を執筆。 縞馬は青い

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