『カネコアヤノ TOUR 2020 “燦々”』密着ルポ【前編】歌えなくなる、その日に向けて

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2020.4.1

「どうせ死ぬなら語り継がれて死にたい。だから今日、1ミリも抜いちゃいけない」

この10年を振り返ってみると、私たちの日常はある日を境に一変してしまうのだと痛感させられることの連続だった。目の前にある風景は、あっけなく変わってしまう。それは、“この街”で起きたことだけでなく、あらゆる土地の災害や事件や事故が、私たちにそのことを伝えてくる。

「過ぎ去っていくことがわかり切っているなら、今の自分が100%楽しむしかないと思うんですよね」。カネコアヤノはそう語る。「ライブもそうだけど、終わることがわかってるからさ。たとえば、憧れの中野サンプラザでやれることは決まってるけど、その日も1時間半しか私は立てないわけですよ。でも、だとしたら、『今まで観てきたライブで一番よかった!』っていうことをやるしかないなって、ほんとに思います。それは全部のライブがそうですね。明日私は死んじゃうかもしれないから、今日の全部を出し切るしかないなって。音楽以外でも、みんなでげらげら笑ったり、おいしいごはんを食べたり、店員さんに『おいしかったです、ごちそうさまでした』ってしっかり伝えたり――そうやって体感したことを、できるだけ覚えておくこと。楽しいことと消えていっちゃうことって、隣り合わせにずっとある感じがするから、私は『とにかく遊ぶ!』と思って生きてます」

彼女の言葉を聞いたあとに、改めて「とがる」の歌詞を読み返すと、そこに込められた言葉の強さが際立つ。過ぎ去ってしまうこと、終わってしまうことに目をつむるのではなく、それを受け入れた上で、今という瞬間をカネコアヤノは肯定する。

「今日『とがる』のイントロが始まったとき、お客さんがわーって盛り上がってたんですよね。歌を聴いてちょっとでも元気になったり、今日も空を見上げて帰ってくれたりすれば、それだけでいいなって思います。ライブに来る前に、つらいことがあったり、立ち向かわなきゃいけないことがあったりしても、今ここで『だけど 今日はたのしい』って、ちょっとでもふわってなれるといいなと」

ライブが終わっても、日々はつづく。だからこそ、観客には腹八分目で帰って欲しいのだと彼女は語る。ここまでのツアーは、弾き語りでもバンドセットでも長丁場にはならず、90分ほどで幕を閉じてきた。

「もちろん100パーセント楽しんでほしいと思ってるんですけど、『あと1曲聴きたかったな』ぐらいの感じで帰ってほしいと思ってるんです。そういう気持ちがあると、なんとなく次があるような感じがしませんか。ライブは終わるけど、つづいてくから。確かにこの一瞬は終わるけど、だから私は、とにかくやりきる。明日、流行りの病に罹るのは私かもしれないし、どうせ死ぬなら『こういうミュージシャンがいてね』と語り継がれて死にてえなあと思うから、だから今日も1ミリも抜いちゃいけないし、『喉がどうにかなるぐらいに歌ったろ!』って私は思う。その一瞬の時間を共有して、誰かひとりががんばれるなら、それで幸せって回るじゃんって思うかも」

だから私はと、彼女は語る。

過ぎ去っていく日々のなかで、それを惜しむでも嘆くでもなく、今という一瞬に詰まっている愛おしさを振り絞るようにカネコアヤノは歌う。その叫びに、観客のひとりである私は背中を押され、今日を生きている。

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仙台MACANAライブ後のワンシーン

2020年2月20日(木)|愛知・名古屋クラブクアトロ


『アルバムって覚えてる?』プリンスの言葉がずっと頭の中に渦巻いていた――西寺郷太インタビュー(PR)

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