「最後かも」という覚悟は毎回している
――三池作品はかれこれ、『神様のパズル』(2008年)以来となります。
塩見 僕はね、病気になる前から、「三池組はもう卒業かな」と考えていたフシがあって。だんだんと作品選びの軸を変えていたんです。けれどもやっぱり「死ぬ前にもう一度、会いたい」という気持ちが強くなった。あと、病気をしたこの身体を彼にちょっと見せてやりたいとも。ダメージを受けてはいるけれども気力だけは残っている男の、その落差みたいなものを三池監督だったら撮ってくれるんじゃないかと期待したんです。
――結果的に、得体の知れない人物像ができ上がりました。
塩見 実は座っている場面で、もうひと芝居、タバコを使って何かできそうだったんですよ。ほかの現場ではしないアドリブなんだけど、三池監督だからちょっとサービスカットでやってみようかと思って。で、共演者のみんなに気づかれないように入れたら監督が飛んできて、「ここで塩見さんが目立っちゃうと、観客にとって映画の筋道がわからなくなる。それはやめましょう」って。なるほど、「誰一人欠けても、この“恋”は生まれなかった」というキャッチコピーは秀逸で、要はこれ、窪田さんとヒロインの小西桜子さん、若いふたりに集約されてゆく映画ですからね。でも普通の監督だったらきっと、あのアドリブにOKを出しているはず。その点、三池崇史というディレクターは“品”がいいからちゃんと抑制をした。
――三池監督の、その“品”についてもうひと言、できればお願いします!
塩見 それも映画を観れば一目瞭然、説明は不要でしょう。インタビュー記事は、よく「こういうことを語っているのでは」という解読を、書き手の人はやってしまいがちなんだけど、わからなかったらわからなかったでいいんですよ。村上春樹さんの小説だって、わからないときがあるでしょ(笑)。けれどもそこにこそ、“村上春樹らしさ”が息づいているんだから。
――そうですね、観ればわかる。では質問を変えまして。ここ数年の塩見さんのお仕事に関してですが、どのような気構えで臨まれていますか?
塩見 まず、作品は厳選していますし、毎回、「最後かも」という覚悟はしています。まあ、ヤクザ役は演じ納めでしょうし、こんなふうに若い人たちと“やいのやいの”とやることもないかと思います。『初恋』の現場ではとりわけ、内野(聖陽)さんがいいリアクションをしてくれました。前にNHKの時代劇(2003年『蝉しぐれ』)で共演していて、そのときのことを覚えてくれていましたよ。俳優って芝居をするのが仕事なのですが、病気をしてから僕は、「共演者に作ってもらっているんだなあ」とすごく感じているんです。内野さんであったり、染谷(将太)さんが僕の役のキャラクターを形にしてくれた。そこは自分の中で明確に変わったところですね。キャストだけでなくスタッフ一人ひとりが役割を果たし、関係性による化学反応を信じた総合力によってひとつの奇跡的なシーンが生まれる。役者が自分の腕を見せようとする姿勢は古臭い。僕はその逆に進んで行きたい。歳が歳だから枯れてしまった……ということでは断じてなくてね。
塩見三省(しおみ・さんせい)
1948年生まれ、京都府出身。70年代から舞台を中心に活動を始め、つかこうへい作・演出『熱海殺人事件~塩見三省スペシャル』などに出演。その後『12人の優しい日本人』(1991年)の出演を機に映画へ活躍の場を広げる。『アウトレイジ 最終章』(2017年)で、同年のヨコハマ映画祭助演男優賞を受賞。
映画『初恋』
2020年2月28日(金)全国ロードショー
監督:三池崇史
脚本:中村雅 音楽:遠藤浩二
出演:窪田正孝、大森南朋、染谷将太、小西桜子、ベッキー、村上淳、塩見三省、内野聖陽
配給:東映