もうひとつの『レ・ミゼラブル』に国家から解放される未来を見た(粉川哲夫)

2020.3.4
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(c)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
文=粉川哲夫 編集=森田真規


2019年カンヌ国際映画祭で審査員賞に輝き、『パラサイト 半地下の家族』とパルムドールを競い、2019年11月にフランスで公開されるやいなや観客動員200万人超えの大ヒットを記録した映画『レ・ミゼラブル』。

本作の舞台となる街は、ヴィクトル・ユーゴーの同名小説の舞台として知られるモンフェルメイユ。パリから17キロほどに位置しながらも、交通の便が悪く、犯罪多発地区になっている郊外都市だ。

評するのは、昨年、パリの出版社から『RADIO-ART』という本を出版したメディア批評家の粉川哲夫。多層的な要素が絡んだ傑作、もうひとつの『レ・ミゼラブル』をぜひ劇場でご覧ください。

「黄色いベスト」運動に影響を受けたタイムリーな仏映画

ラジ・リ監督の長編第1作『レ・ミゼラブル』は、実にタイムリーな時期に公開された。とりわけフランスでは、日々肌で感じている状況(シチュアシオン)に呼応するはずだ。2019年11月にフランスで公開され、ただちに多数の観客を動員したのは偶然ではなかった。フランスでは、2018年10月以後、「黄色いベスト(Gilets Jaunes)」運動が起こり、全国、さらにはベルギーやカナダのフランス語圏にまで直ちに広まり、それが今でもつづいている。

この運動の新しさは、パリのような大都市よりも、地方で起こり、やがて全国で同時多発的に広がった点だ。きっかけは、燃料費の値上げや年金の切り下げであったり、極めて日常的な条件の変化に対する異議申し立てであったが、どこにでもある黄色(実際には黄緑の蛍光色)の「安全ベスト」を羽織り、それぞれの流儀でデモをするというシンプルなスタイルと脱イデオロギーが受けた。

ラジ・リ監督自身は、「黄色いベスト」運動を十二分に意識している。この映画のいわば「初期ヴァージョン」にあたる2017年版を見ると、それにあとから付け加えられた感じの冒頭部分と後半の「暴動」の部分は、明らかに「黄色いベスト」運動に触発されていることがわかる。

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監督のラジ・リは映画の舞台となったモンフェルメイユで生まれ育ち、現在もそこで暮らしている
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フランスのステファン・ルブラン(“20 Minutes”)のインタビューの中で、ラジ・リは、「(マクロン大統領がいる)エリゼ宮で上映会を開ければ、うれしいですね」と口を切っているのは決してただのユーモアではない。ラジ・リによれば、「『黄色いベスト』運動は、もう6カ月もつづいており、街頭でそれぞれの権利を要求している……我々は、事実上、20年も『黄色いベスト』運動をやり、さまざまな権利を20年も要求しつづけてきたが、それは警官の暴力とゴム弾で抑え込まれてきた」。実際、YouTubeにも、ツイッターやFacebookにも日々アップされている映像でわかるように、マクロン政権下の警官の弾圧はすさまじい。ゴム弾で目を撃たれ、失明した者も数知れない。こうした動向について私は、昨年、「雑日記」でリアルタイムにリポートした。

“国家”という中央集権的な権力をさりげない日常描写で示唆

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