異常な熱量のカルチャートークで興味が広がるラジオ『アフター6ジャンクション』は、2に転生してどうなるか

2023.10.18
アフター6ジャンクション2

文=かんそう 編集=鈴木 梢


TBSラジオ『アフター6ジャンクション』が、2023年10月から『アフター6ジャンクション2』に転生。2018年から続く番組が、ひとつの大きな転機を迎えた。それに伴い、放送時間は毎週月曜日〜木曜日の22時〜23時30分の90分に「いったん」変更された。

アフター6ジャンクション2
(c)TBSラジオ

メインパーソナリティはもちろんライムスター宇多丸氏、各曜日パートナーは月曜日が宇垣美里アナ、火曜日が日比麻音子アナ、水曜日が宇内梨沙アナ、木曜日が熊崎風斗アナ、第4週月・火曜が山本匠晃アナという布陣に。もともとの曜日からそれぞれ1日ずれたことで、山本アナがロケットえんぴつ式に押し出されるかたちとなった。

本記事では、過去番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル(タマフル)』『アフター6ジャンクション(アトロク)』の魅力に取り憑かれたブロガーのかんそうが、『アフター6ジャンクション2』への期待を語る。

あらゆるカルチャー情報が強制的に脳に注入される快感

筆者がこの番組と出会ったのは、忘れもしない2015年、radikoでたまたまTBSラジオをつけたところ、たまたま前身番組の『タマフル』が放送されており、そこで宇多丸氏のひとり語りを聴いた瞬間「脳が広がる」感覚に陥ったのを覚えている。そのときに話していた作品のジャンルにはまったく興味がなかったのだが、その恐ろしいまでの話術に引き込まれ、次の日気がつけば映画館へと足を運んでいた。

番組は『アフター6ジャンクション』になってもその感覚はまったく変わらず、「日常生活の中から『おもしろ』を掘り起こすカルチャー・キュレーション・プログラム」と謳うように、芸術、映画、ドラマ、小説、マンガ、アニメ、ゲーム……森羅万象のカルチャーがこの番組に集まってくる。

「マブ論」でノーマークだったアイドルの新曲を発掘できたり、「OKB48選抜総選挙」で自分が使ったことのないボールペンの魅力を知ったり、「月刊しまおアワー」の謎の企画に困惑したりと、こちらのキャパシティを超えてカルチャー情報が強制的に脳に注入される。その瞬間に訪れるのは「ひっ、広がる……」という快感。それをいつでも味わうことができる。

中でも一番衝撃を受けたのが、北海道函館市にある「北島三郎記念館」についての宇多丸氏によるトーク。函館の話題が出るたびに幾度となく北島三郎記念館の感想が語られるのだが「さっき行ってきた?」と思ってしまうほど、詳細にアトラクションの説明をする。その熱量は「異常」というほかない。

私自身北海道在住で、何度も函館に足を運んではいたものの、北島三郎記念館に行こうと思うことはなかった。しかし2020年11月18日放送回で宇多丸氏のプレゼンを聴き、2021年5月に初めて訪れた。

外観のあまりの簡素さに「宇多丸さん、これはさすがに話を盛りすぎたろ」と舐めていたのだが、実際に体験するとその言葉に嘘偽り一切なし。「北島三郎」という稀代の名歌手の人生を余すことなく追体験できるとんでもないクオリティに、脊髄が脳天から飛び出るほど感動してしまった。

それから2021年8月29日に閉館のニュースを受けて「ディズニーランドのクオリティに対抗し得る日本のアミューズメント施設最高峰」「ほとんど洗脳施設」「函館に行って北島三郎記念館に行かないやつはバカ」「拠りどころを失ったような悲しさ」と、それまで以上の熱で話す宇多丸氏の北島三郎記念館トークを聴き、自分でも引くほど泣いてしまった。行儀のいい、きれいな言葉だけではない、そのカルチャーに狂わされた人間の体内からしか出ないマグマのような超高熱トークはいつも私の心を溶かし尽くす。

曜日パートナーそれぞれの魅力

宇多丸氏だけではない、各曜日パートナーの主戦場におけるカルチャートークは、五者五様の魅力を放っている。

「クマス」こと熊崎アナは、まさに実直という言葉がぴったりで、好きなカルチャーに対してまっすぐな愛を届けている。特にグラビアアイドルに対する熱量は恐ろしいほどで、多くのグラビアアイドルを起用している『ゴッドタン』(テレビ東京)のプロデューサー佐久間宣行に「俺たちよりも早い」「キャスティングの参考にしている」と言わしめるほど。「グラビアは自分を“青春”に戻してくれる」は写経したいほどの名言だ。余談だが、グラビアを好きになったきっかけは杉本有美らしく、私がひとり暮らしを始めて最初に買ったグラビア写真集とまったく一緒だった。

「総裁」こと宇垣アナは、形容しがたいフワッとした感覚を的確な言葉にする、言語化の鬼。作品の内容だけでなく自分の人生や考えを投影し、その作品を体験することで自分自身がどう変わったのかというところまで我々に伝えてくれる。いつも彼女の心の中には一本の太い芯があり、その芯から外れるようなトークはしない。発する言葉の一つひとつに一切の嘘がないからこそ、宇垣アナの感想は本当に信頼できる。興奮がマックスに達したときにだけ語彙力が消滅するのも愛ゆえ。宇垣アナがきっかけで読み始めたマンガやアニメは数知れない。

「国民の孫」こと日比麻音子アナは、一見まじめな雰囲気を醸し出しているのだが、たびたび出る言葉の破壊力が凄まじい。仮にアトロクパートナー同士でラップバトルをした場合、実は一番強いのが日比アナなのではないかと思っている。さらにTBSアナウンス室内では「量の日比、度数の山本(恵里伽アナ)」と呼ばれるほどの酒豪で、酒を語らせればアトロク内で右に出る者はいない。月に一度くらいのペースで飲酒ラジオをしてほしい。飲酒はカルチャーなのだ。

「うなポン」こと宇内アナは、パートナーの中で最も喜怒哀楽の感情が振り切れている。そのはつらつとした太陽の光のような声を聴けば、姿は見えなくても表情がありありと伝わってくる。宇内アナの本能から繰り出されるようなトークを聴くと、彼女の豊かな感受性に当てられて自分の右脳もグルグルと高速回転するのがわかる。ゲームに対する愛情は自他ともに認める深さで、特に「結婚したい相手」と豪語する『ファイナルファンタジーX』のティーダへの強すぎる想いを聴くと、むしろティーダに対して「こんなひとりの人間を狂わせて責任取れ」と言いたくなってしまう。

「タカキ」こと山本匠晃アナは、番組の舵を取るバランス感覚が素晴らしい。力を入れるときはバシッと入れ、抜くときはフッと抜く、メリハリのつけ方がうまくて聴いていて惚れ惚れしてしまう。かと思えば時折顔を出す、宇多丸氏に対する歪んだ愛や、映画における食事シーンへの執着など、ピンポイントすぎる性癖が随所に滲み出ており、数年聴いても未だその全貌が掴めない恐ろしい男だ。

そんな愉快な奇人揃いのメンバーによる『アフター6ジャンクション2』がついにスタートした。交通情報が聴けなくなったことを始め、まだ若干の戸惑いはあるが、おもしろさは相変わらず。

さらにうれしいサプライズもあった。それは「YouTubeでの同時生配信」が行われているという点だ。声だけでなく、今まではどんなに願っても決して叶わなかったパーソナリティたちの「動く姿」を拝むことができる。しかも放送後も映像はアーカイブで残されており、本放送はラジオで聴き、YouTubeで2回目を聴くという贅沢も可能になり、これは夢なのかと思った。

『アトロク』が変わってしまうことに少しの寂しさもあった。しかし、寂しさよりもこの時間帯だからこそできる、リミッターが外れたドロドロのマグマカルチャートークが聴ける喜びはそれ以上に大きい。これからも永遠に私の脳を広げてほしい。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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