中学生の漠然とした疎外感をユーモラスに描く、唯一無二の青春マンガ『ぷらせぼくらぶ』

2023.9.2

文=足立守正


2012年に『月刊IKKI』(小学館)で1話目が掲載され、翌年単行本となった『ぷらせぼくらぶ』。今年、描き下ろし短編を収録した新装版が発売された。大人になりきれない馬鹿も盛りな中学生活を、笑い飛ばさず、愛らしく描く。

今回は、ちょっと変わった等身の主人公が愛くるしい青春マンガをレビューする。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.167掲載のコラムを再編成し、転載したものです。

今思い返す、あの教室での浮遊感

たとえば楳図かずおは、ここ四半世紀以上も新作マンガを発表していないが、マンガ家の看板をおろしているわけではなく、流通する名作群により、ますます巨匠として輝いている。電子書籍でも紙でも、名作が常に流通している環境はありがたい。でも、看板としてのインパクトにおいて、紙の本の存在感はちょっと特別だ。ましてや「新装版」となると、再度世に送り出したい人々の熱量も加わってくる。

そんな重い想いをバシッと受け止めたいのが『ぷらせぼくらぶ 新装版』。中学生の学生生活を描いた、一見ささやかな連作集だ。大人になりゆくことへの体感もまだらで、馬鹿も盛りな人生の一季節を、笑い飛ばさずに、苦々しく、愛らしく描いた傑作。物語の中心となる「岡ちゃん」こと岡綿子は、リアルな等身の世界で、あまりにもマンガな姿形で描かれる。もしもこの愛くるしい岡ちゃんにも等身大の姿があるとしたら、と考えると、そこが優しいし、そこが残酷。漠然とした疎外感を、ユーモラスに物語っている。

この1話目を短編として紹介したのは2012年の、通向けマンガ雑誌『IKKI』(小学館)。思えば10年が経ち流通も途切れ、やや忘れかけられていたのかもしれない。そして、品格あるレディースコミックを揃える祥伝社レーベルからの新装版。以上の流れに、登場人物たちと同年代の読者が触れる機会は少ないことに気づく。そうだ。これはかつて中学生だった読者おのおのが、記憶から葬り去った時代の幽霊に成り代わり、郷愁に胸を鳴らしながら教室を漂うためのマンガだ。奥田亜紀子がこの連作に込める浮遊感が、そこにリンクする。

この新装版には、描き下ろし短編「夕子の思い出」が掲載されている。会社勤めに疲れた主人公は本編とは無関係だが、作品自体はその裏返しのようでもある。かつて教室でみっともなかった者たちの末路を、過去の瞳が見届ける話だからだ。浮遊しながら。なに言ってるかわかんないでしょ? まあ、読んでみて。

ところで本作の魅力は、自信の置き所が不思議な筆致にもある。奥田亜紀子の「るすばん」という短編(リイド社『心臓』所収)では、少女がマンガのトーンを手で描けないかと悩むのだけど、同じような気持ちで、岡ちゃんの頭のほつれ毛を見つめてしまう。どうやって描くんだろう、これ。ふと「いやあ、ピンセットでつまんだコガネムシの足にインクをつけて描くのかあ、すごいなあ」と、ワイプの中の浦沢直樹が感心する映像を妄想したりするのですよ。

『ぷらせぼくらぶ 新装版』

『ぷらせぼくらぶ 新装版』

定価:990円(税込)

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(あだち・もりまさ) マンガ愛好家。マンガを評するよりも戯れる姿勢で、雑文を書いたり、研究したりする者です。

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