「良き観客」の視点で古典芸能を現代にアップデート!木ノ下歌舞伎を見逃すな

2020.3.8
木ノ下裕一

(c)東直子
文=前田和彦 編集=森田真規


歴史的文脈を踏まえて歌舞伎演目を“現代の演劇”として上演し、その可能性を再現している団体「木ノ下歌舞伎」。コンテンポラリーダンスやラップを歌舞伎作品に取り入れるなど、古典芸能になじみのない観客にもファンを増やしています。

木ノ下歌舞伎のそうした柔軟性は、主宰者である木ノ下裕一が古典芸能の「良き観客」であることに由来している、とライターの前田和彦氏は分析。

この記事を読んで木ノ下歌舞伎が気になった方は、2020年5月〜6月に上演される『三人吉三』をチェックしてみてください。


“古典と現代つなぐ”真っ当で射程の長いコンセプトを追究

絶対的な音楽愛に貫かれた執筆スタンスで定評のある、音楽ライター・松永良平の自伝的エッセイ集『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)は、音楽に救われたことのある人ならば身に覚えのある、いくつもの瞬間を描いた1冊だ。この本を傑作たらしめている理由のひとつは、どんなライブであれ、ライターである前に、音楽が好きなひとりの「良き観客」としての信頼できる言葉が綴られているからだろう。そんな音楽の現場が主な舞台となる本書の中でも意外な一節がある。

「彼女に付いていくうちにぼくも歌舞伎が好きになり(たいていは一幕見席)、おかげで六代目歌右衛門や七代目梅幸、十三代目仁左衛門などの舞台に間に合ったし、当時上がり調子だった勘九郎(のちの勘三郎)や八十助(のちの三津五郎)を見ておくことができた」 

松永良平『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』

これは著者がライターになる以前に親しんだ歌舞伎に関する記述だが、読んでいて、強烈に連想した人物がいる。それは松永良平がポップ・カルチャーから受けた刺激をさまざまなかたちのテキストとして表現してきたように、歌舞伎をはじめとした古典芸能から受けたイマジネーションを、「良き観客」という立場から再構築して表現する人物――木ノ下裕一だ。

彼が中心となって2006年に結成され京都を中心に活動する木ノ下歌舞伎は、演劇およびパフォーミング・アートのシーンですでに確固かつ特異な位置を占めている。それは歌舞伎と聞いて誰もが思い浮かべるようなわかりやすいイメージに陥ることなく、コンテンポラリーダンスやラップなどさまざまな分野の表現形式を交差させながら“古典と現代をつなぐ”という真っ当で射程の長いコンセプトを追究しているところだ。

『東海道四谷怪談』や『娘道成寺』といったメジャーな演目に新たな解釈を加え、長い歴史を持つ歌舞伎という表現形式の可能性を拡張している。実際、そうした試みは、2016年に上演した『勧進帳』がパリのポンピドゥ・センターでも上演されるなど、海外で高い評価を得ている。

ただ、今回語りたいのはそこだけではない。主宰・木ノ下裕一は演目の監修などを担当しているが、特筆すべきは前述のような複数の人々が関わる上演活動に加え、個人で古典芸能の伝道師のような活躍をしているところだろう。

2019年8月に浅草にて催された「桂吉坊 木ノ下裕一 ふたり会 2」の内容は、上方落語の俊英・桂吉坊による芝居噺『身替り団七』(小佐田定雄・作)、そして木ノ下による『身替り団七』に登場した歌舞伎の演目『夏祭浪花鑑』の解説だった。木ノ下による演目の歴史的背景および構造の解説は、形は違えど木ノ下歌舞伎のコンセプトである“古典と現代をつなぐ”を表現している。

また、2020年1月に両国で行われた「キノカブ版芸能名所図会―隅田川編―」は、隅田川の上流から下流まで行楽地として知られた各スポットと縁深い歌舞伎演目の関係性を解説し、それぞれ現在の風景に重ね合わせていく連続講座だ。それは、今は失われた“ある時代の黄金期”への憧憬をいかに違う表現として今日的に昇華させていくかという意志の表れともいえる。

さらにこれらのトーク最中に発せられた「生まれる時代を間違えた」「今の時代が生きにくい」という“ぼやき”の脱力感は、現在、雑誌『GINZA』(マガジンハウス)の連載「木ノ下裕一のなんでも古典芸能でムリクリ相談室」でも冴えを見せている。特に2020年2月号に掲載された「部屋が片付かないの巻」では相談者への推薦図書として鈴木大拙『禅堂生活』(岩波文庫)を挙げ、「下手なミニマリストの啓発本を読むなら禅の本をおすすめします」という時空を超えた回答を展開するに至っている。   

そして、2020年2月にはこうした活動が認められ、京都府文化賞奨励賞を受賞している。「良き観客」として多面的に古典芸能への愛を表現していく、木ノ下裕一。その多面的なアウトプットが、5月~6月に東京と長野・松本の2カ所で再演される木ノ下歌舞伎『三人吉三』にどのように結実されるのかと思うと非常にスリリングで、今から観劇が楽しみになる。


木ノ下歌舞伎『三人吉三』
(c)吉次史成

東京芸術劇場Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三』

監修・補綴:木ノ下裕一
演出・美術:杉原邦生[KUNIO]
出演:内田朝陽、大鶴佐助、千葉冴太、山田由梨、小日向星一、山﨑果倫、緑川史絵、森田真和、田中佑弥、高山のえみ、武谷公雄、みのすけ、篠山輝信、緒川たまき、村上淳
[上演時間]約5時間30分(途中休憩あり)

■東京公演:2020年5月30日(土)〜6月1日(月)、6月4日(木)〜7日(日)
■松本公演:2020年6月20日(土)

※『三人吉三』は、政府より発令された緊急事態宣言の延長を受け、公演中止となりました。払い戻しなど詳細は公式ホームページをご覧ください。

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『三人吉三』チラシ
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