「自己肯定感」ブームはなぜ終わらない?“自信を持たないとダメ”と思っていた私が、心療内科でかけられたひと言

2022.11.2

文=丸山愛菜 編集=菅原史稀


自己肯定感

この言葉を自分事としてはっきりと認識するようになったのはいつからだろう。気がつけば、雑誌でもSNSでも、頻繁に「自己肯定感を高めよう!」なんてメッセージを見かけるようになった。

「自己肯定感が低い人の特徴」と題される記事には、たいていこんな内容が載っている。
「人と自分を比べて自己嫌悪」「人の顔色を常にうかがって疲れる」「他人に依存する」

それを自分の行動に当てはめては、これはまさに私のことを言われていると考え、なんとか改善しなくては、と焦った気持ちになる。「自己肯定感が低い=損をする」と思い込み、では自己肯定感を高めるにはどうしたらいいのかを検索して、「日光を浴びる」「運動する」「読書する」「小さいことでもいいから自分を褒める」といった方法を実践してみる。だけど、それを習慣づけるのは難しく、結局いつもの「自己肯定感が低い」自分に戻ってしまい、私は一生この性格のままなのか、と落ち込むループに陥ってしまう。


そもそも「自己肯定感」って何?

スマホを操作する人1

だけど、よくよく考えると「自己肯定感が高い」とは、どんな状態を表すのだろうか。そもそも「自己肯定感」ってなんだろう。「自己」を「肯定」する気持ち。字面は非常にわかりやすいけど、その正体って、みんな本当はそこまで理解していないのではないかと思う。要は「ありのままの自分に自信を持つ」ということなんだろうけど、勉強とかスポーツとは違って、自分の中身なんて数字で測って人と比べられるものではないのだから、漠然と「自信を持つ」なんて言っても、そう簡単に実践できるものではない。

そんなふうに考え出してから、「自己肯定感が高い=素晴らしい」という風潮に疑問を持ち始めた。ポジティブであることが健康的とか、「自信を持っている」のが理想のあるべき姿なんだ、とか。それを発信している側だって、実際はあんまり自分に自信を持っていないんじゃないか。受け取る側は、「自己肯定感」の意味がよくわかっていないからこそ、自分に足りない要素として不安に思ってしまうのではないか。

心療内科でかけられた言葉

今年の1月から定期的に心療内科でカウンセリングを受け始めてから、「自己肯定感が低い」を自分なりに解釈した結果、「思考の視野が狭くなり、物事の結論を極端に捉えてしまう状態」なのではないかと思うようになった。

医師

カウンセリングではまず、小さいころから現在までにあったしんどいことについて、ひと通り話を聞いてもらった。私の話を聞き終えたカウンセリングの先生はまず、「そんなにつらいことがあったんだから、そう考えてしまうのは当然ですよ」と言ってきた。今までそんなふうに言われたことはなかったので、なんて返したらいいか反応に困った。昔からいつも、自分がひどい扱いを受けるのは、自分がよくない人間だからなんだと当然のように受け入れていたから。

それから先生は、当時私が受けてきたこと、そのとき自分自身に感じたことについて、「あなたの大切な友達が同じ状況だったらどう思うか」と質問した。私は少し考えて、「大事な友達だったら心配するし、味方になってあげたいと思う」と答えた。すると先生は、「それをあなた自身に思ってあげられないのはなぜか」と聞いてきた。それについては、「私は自分のことが嫌いだから、ひどいことをされていてもしょうがないと思う」と返した。そして最後「昔のことにこれだけ落ち込んで、ひどいときは死にたいと考えてしまう性格は、今後よくなるんでしょうか」と私が投げかけた質問に、先生が返した答えがずっと心に残っている。

マイナスに考えてしまうこと自体を根本から変えようとしなくていい。自分の心の器の容量をなるべく増やしていけるよう、トレーニングをしていきましょう」。


原因も対処法も、人それぞれ

何年経っていたとしても、昔の出来事に苦しんでしまうのは仕方がないことだ。そう思ったことは人生の中で一度もなかったけど、「仕方がない」と声をかけてもらえると、心が少し軽くなった。

先生との会話を通じて、自分が導き出すネガティブな思考は、客観的に見たときに、極端な考え方なのかもしれないと思い始めた。そして、つらいことが起こったとき、暗い気持ちになって落ち込んだら、「自分の大切な人が同じ目に遭ったときにどう思うか」を自分自身に当てはめて方向転換をしたらいいのだと気づくことができた。

そう考えていると、ふと「自己肯定感」の輪郭が見えてきたような気がした。今まで受けてきたことや、トラウマにより現実的な考え方ができず、すぐに「自分が悪いからこんなことが起こるんだ」と結論づけてしまう。先生が言うに、何か嫌なことやストレスに感じることが起こったとき、こうやってパッとすぐに頭の中に浮かんでくる考えのことを“自動思考”と呼ぶらしい。

悩む女性 孤独

明らかにこっちが悪くないことでも、「自分のせいだ」と感じてしまう。嫌なことを言われても「自分がこうだから、あんなことを言われてしまうんだ」と被害妄想をする。人が勝手に不機嫌になっているのに、自分にも責任があるかもしれない、と責任を感じる。そういった自動思考によって苦しんでいる状態が、「自己肯定感が低い」と表現されているのかもしれない。誰しもそれぞれつらい経験やトラウマはあるものだし、大なり小なり、そういったネガティブで偏った自動思考を持っているものだろう。だからこそ、「自己肯定感」というテーマを多くの人が自分事として捉え、共感してしまうんだ、と。

そうだとしたら、SNSなどで流れてくる「自己肯定感の高め方」なんて投稿に感じていた違和感にも納得がいく。別に日光を浴びても運動しても読書をしても、自動思考に気づけないだろう。 まずは根本的な原因に気づかないといけないし、その原因への対処法も、みんながみんな同じものではないはずだ。

もっと生きやすくなるために

私の場合、気分が落ち込んでも、カウンセリングで「認知療法」というトレーニングをして、冷静に気持ちの切り替えができるようにしている。「認知療法」とは、自分の自動思考を客観的に捉え、なるべく現実的で柔軟な考え方を見つけていくトレーニング法だ。

たとえば先ほどのように、先生から「当時あなたは『自分がひどいことをされるのは当然だ』と考えたかもしれないけど、それが大事な友達だった場合にどう思うのか?」と問いかけられたとする。その答えとして、「友達だったらこう思うけど、自分のことが嫌いだからかわいそうとは思わない」という考えが浮かぶ。すると、自分は自分自身に対し、“嫌いな人”としての認識をしていることがわかる。そして、それは冷静な判断をしている状態ではないのだと気づくのだ。

このトレーニングを繰り返していると、実生活でも無意識に自動思考を捉えられるようになってきた。たとえば不機嫌な友達から、嫌な態度を取られたとき。通常の私はすぐに「自分にも原因があるはずだ」と自動思考が浮かび、どう機嫌を取ろうかと考えを巡らせる。だけど、そのあとに「この人が不機嫌なのは、私の責任とは限らないだろう」と考えられるようになり、無駄に落ち込んだりすることがだんだんと減っていった。

写真=筆者提供

こうした自分の変化に気づいたのは、カウンセリングを始めて3〜4カ月くらいが経ってからだ。今は9カ月以上が経過しているけど、特にそれから劇的な変化があったわけではない。カウンセリングに通うようになって気づいたのは、考え方のクセはそう簡単に直せるものではないし、自分の根本はまず変わらないということだ。トレーニングを経て徐々に変化はしているかもしれないけど、もともとの性格は同じままだから、「いつまで経ってもこのままなのかもしれない」と絶望することだってたまにある。

でも、辛抱強く、諦めずにずっと自分に向き合っていれば、少しずつ、今よりは生きやすくなっていくのではないかと思う。


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丸山 愛菜

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