神聖かまってちゃん、4人最後のライブ【前編】切り刻まれたふすまから“最高”の瞬間まで

2020.2.15


結成10周年、愛猫の死

2010年、音楽雑誌の取材に同行し、の子の部屋に初めて入ったときに思わず息を呑んだ。壁にはビンが突き刺さり、ふすまは刃物で切り刻まれ、拳で殴ったであろう大きな穴が空いている。火を点けた痕跡もある。この部屋でどれだけ叫んできたのか、何度涙を流してきたのか。ニートやひきこもりなどという言葉では簡単には片付けられない、せっぱ詰まった不穏な空気すら漂う。でもそこに、すべての創作の起点と彼自身のバイオグラフィーが色濃く充満していた。

の子の部屋のふすま
の子の部屋のふすま

そんな部屋に昨年末、久しぶりにお邪魔した。ちばぎんを含めたメンバー4人最後の年越し配信を映像に収めたかった。

毎年恒例行事であるそのイベントでは1年前、の子が泥酔しながら号泣していた。長年ファンの間でも親しまれてきた愛猫・ネオニーがその日息を引き取ったのである。それは、結成10周年を終えようとする最後の日の朝だった。

命には限りがある。歳を取ることは何かを失っていく過程である。「33才の夏休み」でそんな真実を歌いながらも、愛する存在の死に耐えられずもがき苦しむ姿に胸を痛めた。

「33才の夏休み」

の子が泣き崩れたソファの上に1年後、10年間の昔話で笑い合うメンバーが座っていた。まだ未来への展望などなく、音楽で生活していくことなんて想像できなかったころにメンバー同士で撮影した「いくつになったら」のMV。それを再生しながら、過去と現在、そして未来に思いを馳せるような彼らの姿が印象的だった。

ボロボロになったふすまの先にあった景色

「どんなに成功していても、失敗していても、死は平等に訪れる」

の子はちばぎん脱退のライブで観客にこう言い放った。1年前に愛猫を失い、リストカットや精神薬、自殺願望など、死をいつもそばに置いてもの作りをつづけてきた彼だからこそ、その言葉は決して軽いものではない。

10代~30代の死因の1位がずっと“自殺”である日本。戦争が起きていなくても、若い人たちが次々と命を落としていく。電車は毎日のように止まっている。

生きていると哀しみは増えていく。きっとこの先も大切な人を亡くし、自らの命も消え去るのだろう。今が楽しくても、“最低”はいつだって待ち構えている。そんな事実を隣り合わせに生きているのだ。それでも―――。

「この神聖かまってちゃんで今までやれて、よかったと思います」

ちばぎんが最後のあいさつをするなか、涙をこらえるがあまりなぜか鬼の形相になっているの子、涙を拭った自らの顔を引っ叩くmono、それを見てニヤニヤするみさこ。

ボロボロになったふすまの先にある景色が、まさかこんなに美しいものだなんて。あのころは想像もできなかった未来は、紛れもなく“最高”だった。メンバー4人最後のライブは炸裂しまくり、後方から前方まで多くの観客が拳を上げた。慣れ親しんだメンバーとの別れを惜しみたくさんの涙が流れながらも、それ以上に多くの笑いに包まれていた。

これを希望以外のなんと捉えようか。彼らが<ガンバレないよガンバレないよ. Yo,そんなんじゃいけないよ.>(「フロントメモリー」)と叫ぶ限り、たとえニートでもひきこもりでも、精神障害を持っていても、がんばりたくてもがんばれないでいる人たちも、闇の中から光を掴むことができるかも知れない。そんな新たな選択肢を、このバンドは体現している。

彼らの“最高”の瞬間を生み出した存在

“最低”から始まっても、いつの日か“最高”が見つかるかも知れない。“最高”ばかりを見せるバンドでは決してなし得ないだろう。失敗も成功もあるからこそ、そこには生身の人間そのものの姿が映し出されるのだ。

それを伝えたいから撮りたい。インターネットがあれば、遠く離れた暗い部屋に瞬時に届けることもできる。彼らがつづける配信もまた、その役割を常に果たしている。

そして、彼らが“最高”の瞬間を生み出すのは、彼らだけではなし得なかった。普段近しいからこそ本音を言い合えないメンバー同士の本音を引き出す存在、それはインターネット上における‘’第三者‘’だ。<後編につづく>

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  • 神聖かまってちゃん

    10th Album「児童カルテ」発売中

    「スーパーぴえんツアー」
    3月27日(金)名古屋 CLUB UPSET
    4月3日(金)梅田 Shangri-La
    4月7日(火)渋谷 CLUB QUATTRO

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