GEZAN『狂(KLUE)』が問う、新しい時代の新しい「革命」のかたち

2020.2.10

新しい時代の新しいレベルミュージック

総じて『狂(KLUE)』でマヒトは、「レベル」「革命」といった大仰な言葉を用いながらも、「私たち」「みんな」といったあいまいで危うい複数形の人称を拒否し(「GEZANマヒト談話・後編。希望を歌う覚悟と、己に潜む怪物を語る」矢島大地)、「私」という一人称を持った聞き手の固有性に語りかけている。複数ではなく、単数に。分断を生むクラスタではなく、代替不可能な「あなた」という個に。

誇大なアジテーションによって集団を煽動するのではない。ガス抜きのような現実逃避のファンタジーに聞き手を誘い込むのでもない。現実に向き合った、逡巡を含んだ言葉と歌という手がかりを手渡すことで、一人ひとりを孤独に思考させようとする、新しい時代の新しいレベルミュージック。「幸せになる それがレベルだよ」(「I」)という、あまりにも優しい断言によってこのアルバムは幕を閉じる。『狂(KLUE)』は、音楽的にはパブリック・イメージ・リミテッド『メタル・ボックス』の40年後の未来を描出し、言葉の面ではじゃがたら『南蛮渡来』を更新した、と言ってしまおう。

GEZAN「I」

最後にマヒトの言葉を引こう。「ひとりひとりが変わることはできるはずで。自分で自分のことを大切にして、尊重し、間違ってることを認めつつ、誇りを持った生き方をして、勇気を持って……アンパンマンみたいな話になってきたけど(笑)、でもそれが大事なんだよね。そういうことが『革命』なんだと思う」(「GEZANマヒト声明・前編。獣の姿で個が繋がる『新たなトライブ』」大石始)。『狂(KLUE)』で歌われる「革命」が意味するところを、しっかりと受け止めておく必要があるだろう。

「I」作詞/作曲:マヒトゥ・ザ・ピーポー
(『狂(KLUE)』収録)


GEZAN『狂(KLUE)
2020年1月29日発売 2,800円(税別)(JSGM-34)
レーベル:十三月


■関連記事:マヒトゥ・ザ・ピーポー、『全感覚祭』で実現したい経済の話

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