自在に「越境」を繰り返し、垣根自体を無効化するKiina
おもしろいのは、現代日本を生きる子門慧音は男性だったのに、タイムスリップした先では女性になっているところ。中世フランスにやってきた子門慧音がつけ髭をして“男装”する一幕もあり、劇中でKiinaは男女の性別を軽やかに行き来します。
筆者が訪れた6月7日夜公演のアフタートークショーでは、Kiinaはお気に入りの役がババロアであることを明かし、「ババロアが青年になって活躍するお芝居もやってみたい」と語っていました。
年齢や性別の垣根を超える、というのはKiina自身が強い関心を持つ要素なのでしょう。自在に「越境」を繰り返すことで、垣根自体を無効化する。それがKiinaの目指す先なのかもしれません。「いつだって革命前夜」と高らかに歌い上げる主題歌「革命前夜」と、活動22年目に突入してなお満ちあふれるKiinaのチャレンジ精神が重なります。
しかし、年齢や性別をめぐる描き方が非常にチャレンジングなものだった一方で、一部のギャグが古く感じられたのは残念でした。Kiinaを支える高齢のファンには、ある程度ベタなギャグのほうが受け入れられやすいという事情もあるのかもしれません。だとしても、外国人の片言しゃべりをイジるようなネタを2022年に見るのはモヤッとしてしまう部分もあり……。わかりやすい「ブスキャラ」の存在も少々引っかかりました。
もちろん、価値観でもなんでも「新しいから偉い」ということはありません。ただ、近年のKiinaが発信するメッセージに、上記のようなギャグはそぐわないように感じられました。別に誰かを下げなくても笑いは取れるし、そういった笑いこそがKiinaの世界観と合致するのではないでしょうか。
Kiinaは今年いっぱいで活動休止するものの、今後も歌手活動を継続する意向を示しています。いずれまた特別公演を行う際は、「誰をどうイジるのか」にもう少し配慮した脚本であるとうれしいなぁ……という気持ちです。
Kiina自身と重なる子門慧音
なんだか批判めいたことも書いてしまいましたが、さまざまな衣装を着たKiinaを見られる時点で大満足のイベントではある。子門慧音の「求められる役柄をこなすことが自分の使命」という考え方が、Kiina自身と共通するように思えたのも興味を惹かれる点でした。
デビュー時から「演歌界のプリンス・氷川きよし」という役割をこなし、自らを「サイボーグ」と評するKiina。周囲に求められて多彩な人物になりきる子門慧音役をどのような思いで演じたのか……? しかもKiinaも若いころにコンビニでバイトした経験があるらしく、子門慧音との共通点がなかなか多い。今回演じた役を通して見えてくるKiina像もありそうです。
また、第二部のコンサートも、往年のヒット演歌から最新のロック&ポップスまで盛りだくさんの内容でした。さらに公演期間中は、2階ラウンジがKiina監修のカフェになっているなど、明治座全体がテーマパーク化しているのも楽しいポイント。Kiinaは家庭菜園が趣味なので、カフェでは野菜をふんだんに使ったオリジナルメニューが提供されています。なんとスペシャルサンドイッチには、長年イメージキャラクターを務める「かねふく」の明太子も使われているぞ!
なお、過去に上演されてきた『氷川きよし特別公演』は時代劇だったものの、今回初めて舞台を現代日本と18世紀フランスに設定し、趣向を大きく変えたとのこと。近年さまざまなチャレンジをつづけるKiinaが、自身の座長公演にも手をつけたかたちのようです。もし将来また『氷川きよし特別公演』が行われる際は、どんな舞台になるのか。また、現在の『氷川きよし特別公演』が全公演を終了したあとは、活動休止までの道のりをどのように駆け抜けるのか。2022年下半期もKiinaを追っていきます!
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