声優ラジオの新たな時代を切り開く『鈴村健一のラジベース』【今、ラジオで活躍する中年パーソナリティ②】

2022.6.28
『鈴村健一のラジベース』

文=村上謙三久 編集=森田真規


ライブ活動を行うアーティストであり、即興舞台劇を主宰する役者であり、声優事務所を経営する社長でもありつつ、30以上の番組でラジオパーソナリティを務めてきた経験から自らを“ラジオ特化型声優”と称したこともあるベテラン声優の鈴村健一。

そんな彼がこの春、新たなラジオ番組『鈴村健一のラジベース』をスタートさせた。「ユーザーフレンドリーみたいなところをあえてなくしている」というこの番組の、古くて新しい魅力に迫る。


ラジオには“未知との遭遇”が潜んでいる

令和4年の現在、深夜ラジオでは「中年パーソナリティのジェネレーションギャップあふれるトークを若いリスナーが楽しむ」という今までにない現象が起きている。

10代リスナーに話を聞くと興味深い意見を教えてくれた。サブスクリプション全盛の今、自分の好きなジャンルを掘り下げることは容易になっている。レコメンド機能が発達して、自分が興味あるものどころか今後興味を持つであろうものまで予測して勧めてくれる。とにかくありがたい限りなのだが、この機能が進化すれば進化するほど「自分の興味ないものに出会う」機会は反比例して減ってしまう。そんなとき、両親に近い年齢のパーソナリティが自分とは世代も時代も違うカルチャーを熱っぽく語ってくれるのは心地よいのだという。

どんなに熱く語られても、インターネットが存在しなかった90年代以前は情報を深く調べようがなかったが、今はいくらでも掘り下げられるし、その映像作品や音楽作品に簡単に触れることができる。勧めてくれるパーソナリティとの精神的な距離感も近く、信頼関係もあるから、その魅力がダイレクトに伝わってくる。

もちろんどんなかたちであれ、発信する中年側が押しつけがましくなってしまうと、明らかに“老害化”なのだが、ラジオというメディアは微妙なニュアンスもちゃんと表現できる。なんでも短時間で効率的にすませようとする時代に、長時間じっくりと言葉を重ねるラジオは、自分の知らない未知のジャンルや人間を知るのに最も適したメディアなのかもしれない。

前回のコラムでは世代の架け橋となる例として『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)を挙げたが、ほかの番組でも同じような事例は多い。『伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ)では、Z世代の若いリスナーに“老害さんに聞きたいこと”を募集する「教えて老害さん!」のコーナーがある。実際は明らかに中年リスナーが書いたであろう投稿もあるネタコーナーなのだが、まじめなジェネレーションギャップ論に発展することも多い。

『ナインティナインのANN』(ニッポン放送)でも、若い人たちのタイムラインに流れてきそうな“今っぽいホンモノのニュース”を教えてもらう「ナイナイタイムライン」のコーナーがある。10代リスナーと定期的に電話をつなぐ企画も行っており、『ナインティナイン岡村隆史のANN』時代には10代限定のハガキ投稿コーナーもあった。

“ラジオ特化型声優”鈴村健一

この現象は深夜ラジオに限ったことではないのが興味深いところ。声優がパーソナリティを務める声優ラジオ・アニラジのジャンルでも同じ状況にある。アニメやゲームに関わる職種のため、声優自体がオタク気質である場合が多く、比較的ファン層も若いので、より濃度も濃い。トークの中身は中年リスナーにこそ刺さる内容だが、若いリスナーもそれにおもしろおかしくついていく……という状況が多発しているのだ。

今回取り上げる『鈴村健一のラジベース』もそんな番組のひとつである。文化放送のインターネットラジオ「超!A&G+」でこの春スタートした。毎週火曜日21時から1時間の生放送。

試しに番組の中身に耳を傾けると、「エロ本自販機」「ゴールドライタン」「バリ3」「BB弾」といった若者には通じない単語から、「小室哲哉が持ち運べるキーボード」「セロテープを使った研ナオコのものまね」など具体的な例、さらに『バーチャファイター』の主人公・結城晶の必殺技「裡門頂肘(りもんちょうちゅう)」なんてマニアックな言葉まで語られている。鈴村が偏愛する昭和特撮の話題も多く、それは同世代も置いてけぼりにするほどだ。

“ラジオ特化型声優”と自分を称したことのある鈴村は、数々の実績を持つ40代後半のベテラン声優。積極的にライブ活動を行うアーティストであり、即興舞台劇「AD-LIVE(アドリブ)」を主宰する役者であり、声優事務所「インテンション」を経営する社長でもある。現在は『ラジベース』のほかに、『岩田光央・鈴村健一 スウィートイグニッション』(ラジオ大阪)、『東映公認 鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー』(文化放送)、『鈴村健一のアイスム 週末ダイニング』(TOKYO FM)も担当。ちなみに、妻の坂本真綾もラジオパーソナリティとして活躍している。

鈴村は1994年にデビュー。声優ブームでラジオ番組が大幅に増える時期からキャリアをスタートさせ、WEBラジオに広がっていく過程で経験を積んできた。そのため、パーソナリティを担当した経験が多く、過去のレギュラー番組数は30を超す。ほかのジャンルのパーソナリティでは考えられない数字だ。

早い時間帯からアニメのアフレコが始まる声優業は深夜の生放送と相性があまりよくないが、鈴村は文化放送でオンエアしていた深夜ワイド『ユニゾン!』の木曜パーソナリティを2015年6月から2年9カ月担当。さらに、声優としては異例となるTOKYO FMの朝ワイド『ONE MORNING』のパーソナリティも2019年4月から2年間経験している。声優の番組は得てしてファンクラブ的な雰囲気になりやすいなか、鈴村は声優ファンに深夜ラジオや朝ラジオが持つおもしろさや楽しみ方を伝え、ラジオパーソナリティとしての声優の可能性を広げてきた。

ベタ中のベタを目指すド直球の番組


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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。