『さよなら絶望放送』が挑戦した究極の企画「1通のメールだけを読む回」【過剰なラジオ投稿企画3選】

2022.3.3
『さよなら絶望放送』で起こった前代未聞の事件「カーソルが動かないと思ってマウスを見たら、携帯だった」【過剰なラジオ投稿企画③】

文=村上謙三久 編集=森田真規


ラジオといえば、パーソナリティの歯に衣着せぬトークが大きな魅力のひとつだが、それに負けないおもしろさを発揮しているのがコーナーである。リスナーから届く投稿によって、しゃべり手だけでは生み出せない化学反応が起こり、番組を予想もつかない方向に連れていってくれる。

常連投稿者は「ハガキ職人」(今ならメール職人)と呼ばれる。『ビートたけしのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)から生まれた言葉だが、当時は「ハガキ作家」という言い方もされていた。「職人」や「作家」という単語からもわかるように、投稿者は番組の重要な部分を担う作り手でもあるのだ。ネタコーナー全開の芸人ラジオはもちろんのこと、一般層向けのワイド番組でも、リスナーからのツッコミや近況報告、人生相談などは大事な構成要素のひとつで、ラジオから切っても切り離せない。

番組と投稿者の不思議な共犯関係によって、ラジオ界では日々さまざまな出来事が発生しているが、時には行き過ぎた珍事につながることもある。『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)などの著者である村上謙三久氏が、そんな過剰な投稿企画を独断と偏見で3つピックアップ。3回目となる今回は、2007年から4年間放送されていたアニラジ『さよなら絶望放送』が挑戦した究極の企画「1通のメールだけを読む回」を紹介する。


コールサインはSZBH『さよなら絶望放送』

前回『囲碁将棋の情熱スリーポイント』の「1人のリスナーからのメールだけを読む回」を紹介したが、別ジャンルのラジオでもっと極端な「1通のメールだけを何度も読む回」があったことはご存じだろうか。

そんな前代未聞の事件が起きたのは『さよなら絶望放送』というWEBラジオ番組。久米田康治のマンガを原作としたアニメ『さよなら絶望先生』を宣伝するために、2007年8月から2011年8月まで放送されていた、いわゆる“アニラジ”である。パーソナリティは主人公・糸色望役の神谷浩史と日塔奈美役の新谷良子。アニメを宣伝するといっても、「アニメ・マンガの情報発信や収録の裏話をする」なんてありがちなフォーマットに収まらない番組だった。

そもそも設定から変わっていて、『絶望放送』はあくまで番組なのだけれども、全体を「放送局」、そして各キャラクターに由来するコーナーを「ミニ番組」と定義。文化放送=JOQR、ニッポン放送=JOLFのように、放送局にはコールサインと呼ばれるアルファベットの符号が割り当てられているが、絶望放送にも「SZBH」というコールサインがあり、かなり作り込まれていた。生放送とは正反対に、徹底的に編集技術を活かしていて、SEやBGMを巧みに使い、過去の放送から発言を瞬間的に引用したり、発した言葉を何度もループさせたりと、さまざまな手法が用いられているのも特徴だった。

ラジオ&アニメ&原作マンガがイジり合うメディアミックス

コサキンや伊集院光のラジオの影響を受けている神谷やスタッフの手によって生まれた「ミニ番組」は多数あり、4年間で合計17万通ものメールを集めたほど。原作自体がネガティブな話題が多いコメディ作品だったため、ラジオ的な笑いとの相性もよく、このジャンルではあり得ない投稿熱を生み、アニラジの歴史に名を残す人気番組となった。アニラジ界の年間表彰『アニラジアワード』は一般投票でノミネート番組が決まるが、『絶望放送』は今でも「復活希望ラジオ賞」に定期的に名前が挙がっている。

本来ならばアニラジはアニメの世界観を崩さないのが通常だが、この番組はラジオ、アニメ、原作マンガが互いにおもしろおかしくイジり合うメディアミックスが奇跡的に成立し、ラジオで誇張されて紹介された新谷のうざい一面が原作に影響を与え、日塔奈美までうざくなるというあり得ない事態を引き起こしている。

全203回にわたる放送の中では、声優たちをゲストに迎えつつ、数々の挑戦的な試みが実現している。生放送でないとはいえ、アルコ&ピースの“茶番”に近いといえるかもしれない。


「カーソルが動かないと思ってマウスを見たら、携帯だった」だけを読む回

そんななかで行われたのが、先ほど紹介した「1通のメールだけを読む回」(第119回)である。この回では絶望ネーム(ラジオネーム)「ぴかちょう」による「カーソルが動かないと思ってマウスを見たら、携帯だった」という何気ないメールを味がしなくなるまでしがみつづけた。

糸色望の決めゼリフよろしく叫ぶ「絶望した!○○に絶望した!」、些細なこだわりを叱り飛ばす「きっちりしなさい!」など実に5つのミニ番組(つまりコーナー)が行われたが、読まれたメールはすべて「カーソルが動かないと思ってマウスを見たら、携帯だった」のたった1通のみ。当然、この内容から話を広げられたのは最初だけで、あとはパーソナリティのふたりが文句を言い、開き直りながら、苦悩する展開がつづいた。

仕方なく自宅で携帯を置く場所を語って無理やり尺を埋め、ふたり共読む、キャラを変えて読む、ゆっくり読む、音声を逆回転させて読む……と何度も同じ文面を読み上げて時間稼ぎ。最終的にはスタッフに話を振り、ブースに呼び込んでこれまでの失敗の反省を迫るなどして、どうにかこの回を完走した。

そもそもこの企画は、リスナーからの投稿がもとになっている。「1通のメールを読み、おふたりが話を広げに広げて、番組の最後まで引っ張るというのはどうでしょう? 途中でCMを挟んでも、そのあと、またトークのつづきを展開。おふたりの本当の実力をこの番組で見せるべきです」というメールが2カ月ほど前に読まれていた。その際、パーソナリティのふたりは別の声優がイベントを開催することを条件として提示したが、あっさりと実現したため、この企画もさらに過剰な方向でかたちになったのだ。

過去放送の再現、24分で24のミニ番組、ボツネタのみ……過剰な試みをかたちにした『絶望放送』

『絶望放送』ではほかにも挑戦的な企画がいくつも行われている。杉田智和がゲスト出演した第88回は、「88」が入っている絶望ネーム「紋別港でニポポ人形を入手on88」のメールしか読まない回となったが、ゲーム好きの神谷と杉田に合わせてすべてマニアックなゲームに関する内容で、全25通も採用されている(新谷はまったくついていけず、放送中はPSPで遊んでいた)。これは“1回の放送で1人のメールが読まれた回数”のギネス記録ではないだろうか。

ほかにも、放送を台本に起こしてすべて再現する再放送回、24時間テレビをオマージュして24分間で24のミニ番組を行う回、さらにはボツネタのみ、男性リスナーのみ、女性リスナーのみの投稿を紹介する企画も実現。芸人ラジオ顔負けの過剰な試みをかたちにしている。この番組の常連リスナーには芸人ラジオに投稿している人間もおり、その後のアニラジ界・ラジオ界に与えた影響は計り知れない。

今回は“過剰さ”で切り取ったが、番組とリスナーの共犯関係によって、ラジオ界では常にさまざまな奇跡が起こっている。感動的な物語、人生を変えるような瞬間、腹がちぎれるほど笑える事件、ただただくだらない些細な出来事……。

かたちはそれぞれだが、共通点はラジオを聴きつづけなければ出会えないところ。このおもしろさを知らないなんて人生の半分を損している……と断言するのは明らかに言い過ぎだが、日々の生活にちょっとした彩りを与えてくれるのは間違いない。

【関連】『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』で決められていた“ケンカ最強アーティスト”とは?【過剰なラジオ投稿企画3選】


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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。