タイザン5『タコピーの原罪』が導く、正解のない人生

2022.5.28

文=足立守正


『少年ジャンプ+』(集英社)のオリジナル作品として、わずか3カ月の連載だったにもかかわらず、多くの反響を呼んだ『タコピーの原罪』。ハッピー星の王子を自称する宇宙人・タコピーが、複雑な家庭環境や学校でのいじめに耐える生活を送る人間の少女・しずかを幸せにするため奮闘する物語である。

著者・タイザン5の描く童話世界から、社会を理解するために「練習」する者の苦悩を考える。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.160に掲載のコラムを転載したものです。

宇宙人目線で描かれる人間社会の不条理

絵でも歌でも、子供の芸術は素晴らしい。素晴らしいけど、あれは使い慣れない身体を使った一瞬の面白みを、大人が切り取ったものだからね。子供と大人が目指すものに違いがある。でも、スポーツや技術はそれが同じなので、子供時代に受けた賞賛を糧に練習を重ね、良くも悪くも結果を出すまでの、通しのストーリーが魅力的になる。スポーツマンガが絶えないのもそこだろう。あと、「ループもの」も。俺なんかの世代だと、藤子・F・不二雄の『未来の想い出』か。映画『恋はデジャ・ブ』か。死んだり、リセットしたりで人生を繰り返す。より良い人生のための練習。

タイザン5『タコピーの原罪』は、暗い表情をした少女が、タコに似た宇宙人を助けるところからはじまる。人間を幸福にする使命を持つ宇宙人は、その恩義から、彼女の不幸を除去するため時を戻す機械を作動。しかし、人間社会は子供と言えども複雑でうまくいかず、何度も時を戻してしまう。これもよくあるループものかと勘繰ったが、ループは原理を熟知した宇宙人の仕業なので、描かれるのは不思議な体験に困惑するドタバタではなく、人間を理解しようと練習問題を繰り返す宇宙人の奮闘、となるとあまり見かけない。さらに、ループの頻度を弱めて人間の面倒臭さにはまってゆく中盤からは、地が揺らぐような展開だ。

ネットはありがたいもので、作者が頭角を現すまでに発表された4本の短編が簡単に閲覧できる。どれも普遍的な題材に現在の社会と言葉を混じえた組み上げがフレッシュ。特に惹かれた「キスしたい男」は、本作への布石を匂わせるラブコメディ。ここで「強すぎる肩たたき」と哀しい言い回しで表された「暴力」を、純粋なタコ型宇宙人は哀れにも「強く触る」と表す。考え過ぎな善人と聖人はよく似ている。

短編群と照らすと、本作はあえて有機的に画風を汚したことがわかるが、その中で宇宙人だけはバカみたいにシンプルで、それが神聖にも映る。そういえば、宇宙人が禍々しい決意を抱き、母星へ戻るため突然ロケットのエンジンをかける場面の構図は、まるで奇跡のエピソードを写した宗教画のようだったよ。

ところで、作者自身がインタビューで「陰湿なドラえもん」と着想を明らかにしているとおり、児童マンガのテイストが意識された本作、ちゃんと子供たちに届いているのかしら。こういう苦味は幼いときの栄養でしょ。俺は童話『幸福の王子』(オスカー・ワイルド)の現代版だと思うのだ、コレは。読み直せば、どうやら宇宙人はハッピー星の王子のようだし。

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