フルで観る醍醐味
だが、ラバーガールのコントはやはりフルで観てこそ。最初のワンフレーズでガッと心を鷲掴みにされたかと思えば1ボケ1ボケごとに笑いが増幅され、気づけばネタが終わっている。難しいことは一切考えないで「おもしろかった」という感情だけが残る、あの夢とも現(うつつ)ともつかない体験はラバーガールのコントの醍醐味だ。
特に『キングオブコント2014』でも披露された「子供服売り場」は、個人的には歴史に残る大傑作コントでまさに「全部がサビ」と言っても過言ではない。始まってから終わるまで1秒も飽きさせることなくそのまま走り抜けていく。King Gnuの「一途」という曲を聴いたときの感覚に似ていた。
だが、全部がサビのネタもふたりでなければけっして成立しない。大水洋介の人畜無害そうな見た目からノーモーションで繰り出される予想もつかない斜めの角度からのボケ、次に何を言ってくれるんだろうというワクワク感はディズニーランドのアトラクションに乗ったときの感覚に近い。
あまりにも言動が自然すぎるためもはや「ボケ」を超えているときすらあり、どんな変人を演じても「そういう人」に見えてしまう演技力はまさに「天性」。またコント以外でもNHK連続テレビ小説『ひよっこ』でのクイズ回答者・小水勉三役、『劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班』での内閣情報調査室長の運転手役など出番こそ少ないが確実に視聴者の記憶に残る癖のある役を演じており、もはやドラマ映画界にもその存在感はバレつつある。
そして大水洋介が変であればあるほど、飛永翼の「普通」が逆に恐ろしくなってくる。一見すると地味な存在かもしれないが、よく考えてみてほしい。突然やってきた「異常」の中で「普通」でいられる人間こそ最も異常なのだ。どれだけ大水がトリッキーなボケをしようとも、飛永翼はほとんどのネタにおいて「役」を貫きつづける。店員なら店員、友達なら友達という立場をけっして崩さずに演じている役が言わなそうなセリフは絶対に言わない、あくまでその延長線上で大水に対応していく。そして声のトーン、大きさ、タイミング、間、すべてが「絶妙」、ボケを120%活かす返しを「役」のままやりつづける。この恐ろしさがわかるだろうか。私は『黒子のバスケ』というマンガを読むと、いつも飛永翼を思い出す。飛永が「影」に徹すれば徹するほど「光」である大水の放つボケが何倍にも輝きを増す。
ようやく時代が追いつき始めたラバーガール。このままどんどん売れて、私が大好きな大水洋介の特技「どんな言葉でも即興でなぞなぞっぽいことを言う」で1本番組を作ってほしい、そう思った。
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