なぜ囲碁将棋が北海道で「絶景番組」?地方局で「お笑い番組」を作る難しさ

2022.2.19


北海道の絶景×囲碁将棋の番組ができるまで

今回私が企画書を提出したのが、2021年7月の初め。番組の放送が2022年2月25日(金)予定なので、企画が通ってから放送までに約半年もの時間がかかっている。既存の情報番組でディレクターをやっていたころは、企画書を書いてから放送まではおよそ3週間くらいで、ディレクターの主な仕事はリサーチ、撮影演出、編集の3つだった。

しかし、新しいお笑い番組を立ち上げるとなるとわけが違う。番組ができるまでの流れはテレビ局ごとに違うと思うが、うちの部署の場合、企画書が部長の承認を得たあと、さらに局長、他部署、社長の承認を得て、やっと番組制作に移ることができる。社内調整用に企画書を少なくとも5回くらいは書き換え、この作業だけでも1カ月くらいかかったと思う。

自分が視聴者でしかなかったときには見えていなかったが、視聴率やSNSの反応といった番組の外部評価だけでなく、会社での内部評価も非常に重要な要素なのだと知った。また、学生のころは制作側の人間しか見えていなかったが、番組の立ち上げには、タイムテーブルを作る編成部や、番組を売る営業部、番組と連携した事業を行うコンテンツビジネス部など、他部署との連携が不可欠だ。各部署の人たちからの協力体制がなければ、番組をつづけていくことは難しい。

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『ZEKKEI NETA CLUB』制作のおおまかなスケジュール

企画書を出してから2カ月、2021年9月ごろに社長承認が通り、10月初旬から番組制作がスタート。始めは知り合いのネイチャーガイドや絶景カメラマンにリサーチをして、ひとりで何カ所かロケハンし、11月くらいにロケ地が決定、12月上旬にようやく囲碁将棋のふたりと打ち合わせをした。

同時並行で放送作家さんやデザイナーさん、技術さんと打ち合わせを重ね、2022年1月にやっとロケ。キー局であれば番組作りは分業制で、ひとつの番組にディレクター、AD、編集マンがそれぞれ複数人いるケースが多い。しかし、当番組では、ディレクターひとり(私)、プロデューサーひとり(空気階段が好き)、制作スタッフは計ふたりというストロングスタイルで番組を制作している。

地方局でお笑い番組を作るのはなぜ難しいのか

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マヂカルラブリー、オズワルドが選んだ囲碁将棋のネタが入っている。直前にBOXから引くので、囲碁将棋はどのネタを披露するのか知らない (c)UHB

上述したように、地方局はキー局や準キー局に比べて、制作にかけられるお金と人が圧倒的に少ない。地方局の番組を観ていると、報道番組や情報番組が多く、バラエティ(特にお笑い番組)が少ないと思うかもしれない。その理由は単純で、お笑い番組は地方局にとってコスパが悪いからだ。人もお金も大量にかかるのに、利益はあまり見込めない。

「地域のためになる情報を届ける」という役割がメインである地方局において、報道番組や情報番組は多少お金がかかってもやる意味がある。でもお笑い番組は別になくてもいい。制作費がかかって利益が見込めないなら、キー局で作ったおもしろい番組を買って放送したほうがコスパがいいのである。

北海道という地域に根差したテレビ局において、お金をかけて東京の芸人を呼び、お笑い番組を作るというのならば、それをするだけの理由と放送により得られる利益が必要になる。 正直、私個人の考えとしては、何かを始めることにおいて「意味」や「理由」よりも、「なんかおもしろそうだから」という感覚を信じているのだが、人や会社を説得するときに「なんかおもしろそうだから」は当然まったく通用しない。無理やりにでも、あとづけでもいいから、番組をやる「意味」と「理由」を考えなければならなかった。

囲碁将棋が「絶景漫才」をやっていてくれたことで、絶景と相性のいい北海道という土地で彼らが番組をやる「理由」が生まれた。しかし、番組をやる上でもうひとつクリアしなければならない問題、それが「利益を見込めるか」(=「意味」)である。

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第3話で、極寒の雪山でスーツに着替える囲碁将棋。ちなみにこのときの気温は-5℃くらい (c)UHB

今回の放送は深夜を予定しているのだが、深夜番組において広告収入はほとんど見込めない。では、深夜に放送されている多くの番組はどうやって作られているのか。
ひとつは局側が利益度外視で若手ディレクターの経験のために枠を設けるケースと、もうひとつは企業がお金を出して局に番組制作を依頼するケース、このふたつが多い。キー局の場合は前者のケースも多いが、地方局ではかなり難しい。後者の場合は利益先行で番組が作られるので、商品紹介や企業紹介がメインとなり、お世辞にも「おもしろい!」といえる番組は少なくなる。

となると、違うかたちで利益を出す必要がある。先輩から話を聞くと、かつては地方局も制作費が潤沢で、若手ディレクターが「おもしろい」と思った番組を、収益に関係なく自由に制作できる風潮があったらしいのだが、今はもう若手だろうがなんだろうが、きちんと収益化まで見据えていないと企画が通らなくなっている。

『あちこちオードリー』や『マヂカルクリエイターズ』(いずれもテレビ東京)、『たりないふたり』(日本テレビ)のように、オンラインイベントのチケットやグッズの収入で利益を得るという方法もある。しかし地方局の場合、かなり事例が少ない。というのも、前述の番組はまず番組自体にファンがいて、そのファンがチケットやグッズを購入してくれる。

もし仮に『ZEKKEI NETA CLUB』でオンラインイベントをするとなっても、番組自体にファンがいなければ、いくら囲碁将棋がおもしろいとはいえ、番組イベントのチケットが大量に売れるということはないだろう。もしタレントに多くファンがいる場合でも、番組自体がおもしろくなければ、継続的にイベントを収益源として放送していくことは難しいと思う。

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第4話、漫才用スーツを持って雪山を歩く囲碁将棋。このときの気温は-10℃くらい (c)UHB

加えて、本番組の放送地域は北海道のみで、番組自体を知ってもらえる機会も少ない。繰り返しになるが、地方局でお笑い番組を作るというのは、キー局以上にいくつもの壁が存在する。今回の番組の場合、お笑い好きの営業マンが1社スポンサーを獲得してくれたのが救いだった。番組開始前に1社提供がついたおかげで、目先の収益は考えず、時間をかけて収益化を目指そうという話になった。営業の千葉さん、本当にありがとうございます。

番組の「ゴール」は「つづける」こと

長々と理論派テレビ局員風に語ってきたが、私はそんなに賢い人間ではない。ただ囲碁将棋の番組が観たくて、囲碁将棋の番組を作った痛めのお笑いファンである。中学生のころからずっと囲碁将棋が好きで、ルミネや無限大、神保町のライブに通いつづけた。好きな漫才師は多いが、「一番好きな漫才師は?」と聞かれたら「囲碁将棋!」と間髪入れずに答える自信がある。

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筆者が足を運んだ囲碁将棋のライブのフライヤーたち

今回の番組は15分×4回の短期番組。しかし、番組のゴールはつづけることであると思っていて、そのための「意味」と「理由」を考えつづけなければならないと思っている。理想だけ語るならば、春、夏、秋、と季節ごとの絶景スポットでロケをしたいし、ゲストにママタルトやオズワルドも呼びたい。 今回の放送は全4回。1回目から4回目までそれぞれの回にそれぞれの「おもしろい」を詰め込んだので、1回だけとはいわず、全4回全部観てもらえたら嬉しいです。嬉。

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ふたつぎ

1996年生まれ。青山学院大学のお笑いサークル「ナショグル」に所属し、『M-1』などにもエントリー。卒業論文は『ゴッドタン』(テレビ東京)などを題材にした「お笑い番組から考えるテレビ番組のデザイン」で、佐久間宣行がツイッターで「嬉しかったし、何より面白かったです!」とコメントするなど話題となった。現..

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