「その芸人だからこそできるネタ」があった
しかし、目が覚めて今大会を冷静に振り返ってみると「なんのネタをするか」よりも「誰がネタをするか」が強い大会だったように思えた。モグライダーのともしげには美川憲一のステージにいきなり乱入して星座を尋ねそうな危うさがあるし、ランジャタイ伊藤幸司の「アーッ! かわいそう……相手もいないのに」「出ておいでニャンちゃん」「体大丈夫? 心配……」と国崎を本気で心配するツッコミには人柄が滲み出ていた。
ゆにばーすの、ひとつ間違えたら死ぬほど怒られかねない男女関係ディベート漫才も、「絶対に何もない」はらちゃんと川瀬名人が演じるからこそ笑えたし、敗者復活戦を勝ち抜いたハライチのこれまでの15年をすべてフリにするかのような全否定発狂漫才も、岩井勇気と澤部佑の人となりを知っているからこそ衝撃を受けた。
真空ジェシカの一発一発ライフルに銃弾を込めて眉間を狙って撃たれているようなネタも、ふたりの素の大喜利力の高さが恐ろしいほど伝わってきたし、オズワルドの「友達」も畠中悠が醸し出すヤバい雰囲気が嘘だとわかっていても本当に「友達0人の男」にしか見えなかった。
ロングコートダディに至っては、人間どころか「天界を司る者」と「生まれ変わった肉うどん」にしか見えない瞬間が何度もあったし、インディアンスは異常なテンションとテンポを最後まで維持する底なしの体力に恐れおののき、ももは互いの顔と中身のギャップをひたすらイジり倒し、せめる。と、まもる。という「人間」を存分に見せつけられた。
「台本」という前提があってそれを演じてしゃべるのが漫才やコントだとしても、今回の『M-1グランプリ』や先の『キングオブコント』で披露された数々には「その芸人だからこそできるネタ」があったと思う。
そして、その完全体こそが錦鯉なのかもしれない。底抜けにバカで明るい長谷川雅紀50歳を、中間管理職顔の渡辺隆43歳がいなして捌く、人生五十年を生きたふたりにしかできない漫才。生きとし生けるすべての人間に等しく開かれたわかりやすさの極みのようなネタにもかかわらず、匠の技ともいえる繊細さがあった。
敗者復活戦でアルコ&ピース酒井健太が鳥に対して「芸人舐めんじゃねーよ! 簡単そうに見せることに技術がいるんだよ! バカじゃできねぇんだよ! 経験! タイミング! 間! プロの技術ってもんがあんだよ!」と叫んでいたが、まさにそれを体現したのが錦鯉だった。
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