DISH//、バンドとしての成長と有観客ライブへの感慨「同じ空間で、同じ気持ちを共有できる奇跡を噛み締めてる」<紅白初出場記念>

2021.12.3


「明日があるって、当たり前じゃない」

DISH//(QJWeb独占公開写真)

ライブもいよいよ後半へと差しかかるなか、北村はMCでこう切り出した。
「見えない敵が、みんなと僕らの距離を引き離そうとする不思議な時代だと思う。こうやって同じ空間にいるだけで、音楽で同じ気持ちを共有できることは奇跡なんだなって噛み締めてる」

『Spring Tour 2020 「CIRCLE」』の全日程、『DISH// Spring Tour 2021“X”』の大阪公演と、2年つづけて未知なる脅威によって//erとの時間を引き裂かれてきた彼ら。そんな状況に直面したのはDISH//だけではないとわかり切っていても、自然と言葉にはやるせなさが滲む。しかし、けっして希望を絶やしていないことも強く伝わってきた。それは「明日があるって、当たり前じゃない。だから今を楽しもうって思うし、みんなの顔を見ようと思う」と投げかける北村の視線が、あまりにもまっすぐだったからだ。

「僕らの曲というよりは、みんなの曲だと思って歌っている」と告げ、「DISH//を必要としている人との再会」をテーマにした楽曲「僕らが強く。」へ。スタンドマイクに言葉一つひとつを落とし込む北村、想いのすべてを音に込める矢部・橘・泉の3人、そのすべてを全身全霊で受け取ろうとするオーディエンス。橘から先導したクラップは、//erのクラップと重なり会場に広がっていく。BPM75で刻まれる温かいビートは、DISH//とファンの心音が重なり共鳴しているかのようだった。その後はアルバムの流れに則り、ロックスター然とした「未完成なドラマ」「バースデー」と一気に駆け抜けていった。

DISH//

「みんなで道のない道を歩いてきた」

しっとりと聴かせ、バンドとしての実力を示し、熱い想いも余すことなく伝え切る。そして、ラストでは沸かせ切ってしまうのだから、DISH//は本当に底が知れない。サウナを彷彿させるオレンジの照明を背負い「SAUNA SONG」をラフに歌い上げると、「サウナに入って“ととのった”ところで、皆さん準備はいいですか。ぶちアガっていきましょう!」と威勢のいいひと言を放ち、泉、矢部、北村、橘の順でソロをつなぎ、「勝手にMY SOUL」へとなだれ込んだ。

DISH//(QJWeb独占公開写真)

向き合いながら演奏する矢部と北村、イスの上に立って煽る橘に先導され、会場の熱気はどんどん上がっていく。「I’m FISH//」ではファンと一体になってステージを作り上げ、「Seagull」で一気にラストスパート。最高潮を見計らったかのように、トリとなる「No.1」へ結ばれた。“突き上げたNo.1が”と北村がNo.1のハンドサインを空に掲げると、呼応するように客席からも幾多の腕が空に向かって突き上げられた。

DISH//(QJWeb独占公開写真)

北村はMCで、「仲間と呼べる人たちが近くにいて、こんなに幸せなことはない。10年前、何を想ってDISH//は始まったんだろうと思うこともあります。何度も壁にぶち当たっては話し合いをしたり、その壁を乗り越えたり、打ち砕いたりしながら、今のDISH//がある。その歴史の横にはみんながいて、メンバーがいて。みんなで道のない道を歩いてきたなって思います。僕が突き上げた指に、みんなが集まってくれたんだなって。絆って僕らのものじゃない、みんなのもの。だから改めて、みんなに『ありがとう』を言わせてください」と話していたが、その光景は彼の言葉を具現化しているかのようだった。

今回のライブは、『X』A面オープニングの「ルーザー」とA面ラストの「Seagull」の間にセットリストを組み、最後の締め括りを新曲の「No.1」が飾るという構成だった(『X』はアナログレコードのA面(1~6曲目)・B面(7~12曲目)に見立てて曲順が練られている)。それはまるで、負けていた自分たち(「ルーザー」)から新しいスタンダード(「Seagull」)への道筋を描き、次のフェーズへ進んでいくのだと物語っているかのようだった。

『X』リリース時のインタビューで北村は、「DISH//の9年を考えたときに、『まあ負けて生きてたなー』というイメージが僕の中にはあるんです/自分たちはけっこう負けてきたけど……それでも戦ってきたという事実が、今の原動力になっているんです」(『音楽ナタリー』「『猫』の先に見つめるもの 今4人の手で刻む、DISH//のアイデンティティ」)と語っていた。

DISH//は、ヒットソングによって突如シーンを賑わせている新人ではない。大敗を感じようとも何度倒れようとも、不安を焼き尽くして今より高い景色を目指し、止まらず前に進んできた挑戦者なのだ。だからこそ、彼らは新たなフェーズに到達できたのである。

未だに世界は、先行きの見えない日々がつづいている。だけど、DISH//が逃げ場所を守っていてくれる限り希望を失わずに生きていたい、そんな想いが胸に芽生えたライブだった。

2021年5月14日、中野サンプラザホール『DISH// Spring Tour 2021“X”』セットリスト
1.ルーザー
2.rock’n’roller
3.ビリビリ☆ルールブック
4.へんてこ
5.猫
6.君の家しか知らない街で
7.Get Power
8.KICK-START
9.NOT FLUNKY
10.東京VIBRATION
11.僕らが強く。
12.未完成なドラマ
13.バースデー
14.SAUNA SONG
15.勝手にMY SOUL
16.I’m FISH//
17.Seagull
18.No.1


この記事の画像(全13枚)




この記事が掲載されているカテゴリ

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

⾃⾝の思想をカタチにする「FLATLAND」

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

「BiSH」元メンバー、現「CENT」

アーティスト

セントチヒロ・チッチ

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)

最新ニュースから現代のアイドル事情を紐解く

振付師

竹中夏海

平成カルチャーを語り尽くす「来世もウチら平成で」

演劇モデル

長井 短

子を持つ男親に聞く「赤裸々告白」連載

ライター・コラムニスト

稲田豊史

頭の中に(現実にはいない)妹がいる

お笑い芸人「めぞん」「板橋ハウス」

吉野おいなり君(めぞん)

怠惰なキャラクターでTikTokで大人気

「JamsCollection」メンバー

小此木流花(るーるる)

知らない街を散歩しながら考える

WACK所属「ExWHYZ」メンバー

mikina

『テニスの王子様』ほかミュージカル等で大活躍

俳優

東 啓介

『ラブライブ!』『戦姫絶唱シンフォギア』ほか多数出演

声優

南條愛乃

“アレルギー数値”平均の約100倍!

お笑い芸人

ちびシャトル

イギリスから来た黒船天使

グラビアアイドル/コスプレイヤー

ジェマ・ルイーズ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。