和田彩花が目指した“アイドル”という意味の拡張。その2年間の苦闘が生んだデビュー作『私的礼讃』

2021.11.24


なぜ和田彩花は歌うのか?

なぜ彼女は歌うのか? その理由を第三者から推測するならば、自分自身の思考を別の何かに委ねるのではなく、自分なりの手法、ペースで表現できる“小さな場所”として音楽活動を機能させているからだろう。

事実、彼女はメジャーレーベルに所属せず、インディペンデントな環境で活動を行っているし、ソロ楽曲ではすべての作詞を手がけているように、その一つひとつが彼女の所信表明となり、社会批評ともなっている。ソロとして初めて公開された楽曲「Une idole(=私はアイドル)」から、音楽を通じて和田彩花そのものを純度高く表現する、という信念はずっと貫かれているのだ。

【和田彩花】 Une idole 【MUSIC VIDEO】

そしてソロ活動の開始から2年と少し。コロナ禍で予定は大きく狂わされながらも、バンド編成でのライブを中心に、マイペースに音楽を紡いできた彼女の初の音源集『私的礼讃』が、11月23日に配信リリースされる。これまで披露されてきた20数曲の楽曲ストックから、ポエトリーリーディングも含めた15曲をピックアップして収録。音源では、楽器編成に捉われない、エレクトロ×生音の多彩な組み合わせが印象的なサウンドとなっており、J-POPやアイドル・ポップスよりも、欧米のインディー・シーンと共振するような作風となっている。

具体的には、Chvrches、Kero Kero Bonitoらのメロウでノスタルジックなエレクトロ、かつてライブでも共演したSen MorimotoやAAAMYYYをはじめとする、ソウル~ジャズのエッセンスを採り入れたハイブロウなアレンジ、また、Mitskiやセイント・ヴィンセントが社会に対して掲げてきたアティチュードといった、総じて“オルタナティブ”な世界観に同時性・共時性を感じさせるものだ。サウンド・ディレクションも務める劔樹人(Ba.)、オータケコーハン(Gt.)といった「あらかじめ決められた恋人たちへ」のメンバーをはじめ、それを体現できる演奏陣や制作陣の参加も見逃せない。

Wada Ayaka Live “2020 Postponement of Postponement of Postponement” Live Digest

「好きな美術のジャンルがそうであるように、モダンなもの、アヴァンギャルドなもの、実験的なそれはすんなり私に馴染んだ。(中略)自分の音楽活動の志向は、オルタナポップであることをこの1年で自認できるようになったし、そのようなあり方を追求したいとも思っている」(「未来を始める」第8回より)

事実、歌詞やボーカルの在り方も、ハロプロで歌われていた世界とは真逆の位置にあると言えるだろう。少女の未成熟な視点から、恋愛や家族を媒介にして社会から宇宙までを射程に収める“下から上へ”の関係ではなく、社会を形作る当事者として自身の肉体や思想をダイレクトに歌詞へと反映させ、フラットな視点から世界を読み解こうとする方法論へと移行している。

世界平和を真正面から歌った「空を遮る首都高速」、母性や母という存在への揺れ動く感情が乗せられた「mama」や「ホットラテ」、ジェンダーへの違和から生じる怒りや悲しみを救済するかのような「For me and you」など、そこには嘘偽りのない和田彩花の心がシアトリカルに映し出されている。

【和田彩花】空を遮る首都高速 【MUSIC ONLY】

刺激的なオルタナティブ・ポップス集としての『私的礼讃』

「未来を始める」にも生々しく綴られているが、2020年、彼女は以前から熱望していた渡仏を、世界的なパンデミックによっていったんは断念している。追い打ちをかけるように、和田が根を張るカルチャー/アートシーンは、コロナ禍で「不必要」の烙印を押され、ある期間、息を潜めざるを得なくなった。

だが、『私的礼讃』は、こうした状況を打破するものとして、堂々と、笑顔で音楽の価値を訴えかける強靭さを有している。それは、アートやカルチャー、そしてもちろんアイドルという存在に憧れ、助けられてきた彼女の、愛と抵抗の証であるかのように。

「そんな私が個人でできることは、批評性と音楽とアートとアイドルのうちを行き来することだと思っています。これらのジャンルを行き来しながら、言葉・声・身体を使って、発信・言論・表現活動をもっと深めていきたいです」(「未来を始める」最終回より)

アイドルにまつわる常識を揺り動かし、そこに内包される意味を拡張していく。『私的礼讃』は、そんな理想への第一歩としてあるべき品格と知性を伴った、それでいて刺激的なオルタナティブ・ポップス集だ。そしてその背景として、この2年間、ソロとして闘ってきた和田彩花という人間のメカニズムがしなやかに息づいていることが、何よりも代えがたい魅力となっているのである。


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Written by

森 樹

(もり・いつき)編集者、ライター。編プロ勤務を経て2019年に独立。『クイック・ジャパン』本誌ほか、カルチャー誌、アニメ誌などに寄稿。映画やアニメ作品のプレスリリースやパンフレットの編集も手がけている。映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』にも宣伝協力で参加。

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