「野良犬と山犬の時間」に出ていたのは……?
ハンソクのイライラは募っていた。ヴィンチェンツォに正体がバレただけでなく、命まで脅かされたのだ。“神になろうとする男”のプライドが傷つくのは当然である。とはいえ、検察が自分を連行しようとしていると聞き、義弟のチャン・ハンソ(クァク・ドンヨン)の進言を受け入れて別荘に隠れることにする。
別荘でハンソクが観ているドラマのタイトルは「野良犬と山犬の時間」。これは韓国で大ヒットしたドラマ『犬とオオカミの時間』のパロディー。なりすましの潜入捜査もので、元ネタは香港の大ヒット映画『インファナル・アフェア』。ハンソクとハンソもなりすましの関係であり、なりすましている側がなりすましている相手を殺す展開を見てハンソクの気分が悪くなるのも当たり前だろう。「野良犬と山犬の時間」に出ているのは、オク・テギョンが所属するグループ、2PMのニックンとチャンソン。撮影当日は、ふたりの撮影現場にソン・ジュンギがやってきて激励していた。
気を取り直してバスタブに浸かるハンソクだが、そのままお湯の中に沈んでいく。その直前に飲んだミネラルウォーターの中にヴィンチェンツォが薬物を入れていたのだ。直接仕掛けたのは、とてもよく働く猟犬のふたり(キム・テフン、イ・ドグク)と協力を申し出たクムガ・プラザのイ社長(ヤン・ギョンウォン)。薬の実験台にされた事務長(ユン・ビョンヒ)はいつも献身的だ。ヴィンチェンツォがハンソクと電話中に聴いていたのは、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲ト短調。電話を一方的に切られたハンソクの苛立ちは募るばかりだが……。
翌朝、チェ・ミョンヒ(キム・ヨジン)から吉報を知らされたハンソクは途端に上機嫌になる。ミョンヒは手強いバベル化学労組の組合長に買収を持ちかけ、断られるとトラックで撥ね殺してしまったのだ。やると思ったよ! ここで『ヴィンチェンツォ』あるあるをひとつ。ミョンヒが悪い会合をするときは日本食レストランを選びがち。
バベルグループのカインとアベル
ハンソクとハンソがふたりで狩りに出かける。裏で糸を引いていたのは、ウサン法律事務所のハン代表(チョ・ハンチョル)だ。暴君ハンソクを恐れる彼は、御しやすいハンソをバベルグループの会長に据えようとしていた。そのために必要なのは、ハンソクの抹殺。怖気づくハンソにこうまくし立てる。「幸せな“アベル”にします。“カイン”への罪悪感は必要ない」「チャン・ハンソよ、大志を抱け!」。
「カインとアベル」は、旧約聖書「創世記」に登場する兄弟のこと。カインがアベルを殺害するのだが、これが神話の中での人類初の殺人の加害者・被害者であり、唯一神ヤハウェにアベルの行方を問われたカインは「知りません」と人類最初の嘘をついたとされる。弟が不幸になる話だから、ハン代表は「幸せな“アベル”にします」と誓ったのだろう。なお、『カインとアベル』というタイトルのドラマが、韓国(09年)と日本(16年)でそれぞれ制作されている(リメイクではない)。
ハンソの計画はシンプルだ。狩りの最中に兄を射殺すること。先を歩くハンソクに散弾銃の照準を合わせるハンソ。果たして臆病者のハンソに引き金を引けるのか? 引いた! 撃った! 驚いた! しかし、血まみれになって立ち上がるハンソク。まるでゾンビのようだ。ハンソは再び銃を構えてとどめを刺そうとするが、すんでのところでほかの狩人がやってきてハンソクは一命を取りとめる。今回はいつも以上にオク・テギョンの演技が鬼気迫っていた。
入院から復帰したハンソクは、韓国の有力者たちが集まったバベルタワーの競売会場に姿を見せ、ついに自分がバベルグループの真の会長、チャン・ハンソクだと明らかにする。側には「俺のコンシリエーレ」ことミョンヒも一緒だ。
オク・テギョンのオフショット
兄弟が骨肉の争いをしているころ、ヴィンチェンツォはチャヨンに甘いデコピンをされていた。誰かが誰かに殺されそうになっているとき、誰かが誰かにデコピンされている。なんちゅう落差だ。でも、世の中はそんなものなのかもしれない。
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