インターネットで生まれ殺された、ラップ・スターの真実の姿とは

2021.3.16

現代のラップ・スターの本質を“知った気にならない”ために

30代も半ばを過ぎて、東京で何不自由せぬ生活をしていると、まだ将来有望な若者が、なぜ簡単に犯罪に手を染めてしまうのか、なぜ得体の知れないドラッグにハマってしまうのか、なぜ愛する人を守ろうとせずに危害を加えるような行動に出てしまうのか、なかなか理解しづらいことがある。特にそれが遠く離れたアメリカの端っこに生きる若者のことであればなおさらだ。

しかし、本書ではテンタシオンの両親のことや彼の細かな一挙手一投足までが論じられ、その大胆な訳文の文体と共に、彼の楽曲を通して伝わってくるのとは全く別のかたちでテンタシオンの人となりが頭の中に入ってくる。彼は、インターネットで生まれ、インターネットによって殺された。センセーショナルに時代を飾ったスターとしてはこれ以上にないほどの幕の引き方であった。

彼が「SAD!」や「Fuck Love」、そして「Jocelyn Flores」といった楽曲で訴えたかったメッセージとは何であったのか。

XXXTENTACION - SAD!
XXXTENTACION - Fuck Love (Audio) (feat. Trippie Redd)
XXXTENTACION - Jocelyn Flores (Audio)

本書を通じて今更ながら、私はそれらをただ“知った気になっていただけ”であったことに気づかされた。確かにテンタシオンやコダック・ブラックといった、問題を抱えた若いミュージシャンのことを「問題児であり、理解できない」と一蹴することは簡単だ。もしくは、そうしたミュージシャンが作り出す内省的な楽曲のことをまとめて「エモ・ラップ」とか「メロディアス・ラップ」とラベルを貼って括ってしまうことも、また簡単である。

しかし、本書を読み進めていくうちに、彼ら、そして彼らの作品を必要とする若いリスナーたちにとって救済とは何なのか、ということも考えられずにはいられなかった。 刹那的で鋭い彼らの作品を、SNS時代の賜物としてただ消費するだけでいいのか。彼らの作品の背景にある本質的な問題にも、同じくらいの注意を向けなければならないようにも感じる。

この記事の画像(全2枚)




関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

Netflixの“+1”最右翼がディズニープラスである理由とは?群雄割拠の動画配信サービスを読み解く

B型の男はブレない。緊迫感のある日々に安らぎをくれた『山下達郎のサンデー・ソングブック』(ヒコロヒー)

「Say So」、「春を告げる」、『ヤリチン☆ビッチ部』主題歌…バイラルヒットが世間を揺るがすようになった2020年に印象的だった5曲(柴那典)

ケビンス×そいつどいつ

ケビンス×そいつどいつが考える「チョキピース」の最適ツッコミ? 東京はお笑いの全部の要素が混ざる

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターとして廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターの廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

パンプキンポテトフライが初の冠ロケ番組で警察からの逃避行!?谷「AVみたいな設定やん」【『容疑者☆パンプキンポテトフライ』収録密着レポート】

フースーヤ×天才ピアニスト【よしもと漫才劇場10周年企画】

フースーヤ×天才ピアニスト、それぞれのライブの作り方「もうお笑いはええ」「権力誇示」【よしもと漫才劇場10周年企画】

『FNS歌謡祭』で示した“ライブアイドル”としての証明。実力の限界へ挑み続けた先にある、Devil ANTHEM.の現在地

『Quick Japan』vol.180

粗品が「今おもろいことのすべて」を語る『Quick Japan』vol.180表紙ビジュアル解禁!50Pの徹底特集

『Quick Japan』vol.181(2025年12月10日発売)表紙/撮影=ティム・ギャロ

STARGLOW、65ページ総力特集!バックカバー特集はフースーヤ×天才ピアニスト&SPカバーはニジガク【Quick Japan vol.181コンテンツ紹介】