昭和顔のボス猫「いわ」を保護した話。悲劇はおまえに似合わないのに〈残された者になるのを前提に猫との日々を楽しんでいる〉

2021.2.4

「いわ」の異変

猫は、わからない。不安は全部取り越し苦労だったのに、考えてもいないことが起こるのだ。

〈大晦日、一日、二日 どの夜の夢が初夢なんだったっけ?

初夢を見ているはずの1/2の夜(諸説あります)に、僕が見たのは悪夢のような現実だった。

「いわ」と僕は一緒に寝ている。1/2の夜中、眠る僕の足元で「いわ」がくしゃみをしている声で起きた。「大丈夫?」と声をかけながら、連続でくしゃみをする「いわ」のほうを見た。常夜灯の明るさの中で、「いわ」の鼻から何か垂れているのが見えた。「鼻水?」と思って電気を点けてみると、それは血だった。くしゃみのたびにダラダラと流れる鮮血。お、お、お……おびただしい量の鼻出血だ……。なんで? なんで? ウェットティッシュで拭いても拭いても吹き出してくる。くしゃみをして、首を振るから鮮血が部屋のあちこちに飛び散った。部屋は血まみれで惨劇が起きたみたいだった。翌朝にかけて3回出血した。

明けて1/3、本来はまだ正月休み中のかかりつけの病院に連絡を取って、無理を言って診察してもらう。取り急ぎ止血剤と抗生剤を投与。

翌1/4、検査した結果、おそらく左犬歯根元の炎症が原因だろう、と。ただし確定診断はCTを撮ってから、そして確定であれば犬歯を抜くことになる。CTも撮れて、歯の手術もできる別の病院を紹介するので、そちらでやってもらったほうがいい、とのことだった。

CT検査および手術は1/9に決まった。「いわ」は、貧血で猫エイズ(FIV)が陽性なので、手術での出血も、術後も心配だ。

*猫エイズ(FIV)は、発症すると対症療法しかない病気だけれど、一生発症しない猫も多い。

当の「いわ」が至ってのんきに見えるのだけが、救いだった。

わかっているのかわかっていないのか わからないのが猫のいいところ〉

少し手術が長引いておりますので

1/9は朝「いわ」を病院に預けた。「全身麻酔でCT検査のあと、歯が原因であれば抜歯手術、そうでなければ原因によって対応を考えますので、夕方16:30くらいに一度連絡をください」と告げられた。

16:30に電話をかけると「少し手術が長引いておりますので、終わり次第こちらから折り返します」とのこと。こういうときに悪いことばかり頭に浮かぶのは、性分なのだろうか。こんなに気持ちが落ち着かない時間、ちょっと思い出せない。

17:00過ぎに病院から電話がかかってきた。手術はうまくいきました、と。ただ貧血がひどいので、1日お預かりします、とのことだった。

翌朝、病院に「いわ」を迎えに行った。いつもと変わらない様子の「いわ」を見て「よかった、生きてた」と思った。そう思ったことで、実際に見るまでは、どこかで「もしかしたら……」と思っていたことに気づいた。

僕ものんびりなら得意だ

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