陰りある時代に音楽の力で光を射す──和楽器バンド、メモリアルイヤーの『大新年会』に込めた想い

2021.1.24

文=坂井彩花 写真=KEIKO TANABE、上溝恭⾹
編集=森田真規


2021年でデビュー8年目を迎える、メンバー8人による和楽器バンドの年始恒例となっているライブ『大新年会』が、1月3日、4日の2日間にわたって日本武道館で開催された。

本稿では、「こんな時だからこそ、メンバー八人、世界中に音楽を。エンターテイメントを。届けたい!」という想いのもと、2021年の1年間で8つのニュースを発表する「八奏新報」の第1弾も発表された、1月4日に行われたライブ『和楽器バンド 大新年会 2021 日本武道館 2days ~アマノイワト~』のレポートをお届けします。


和楽器バンドの決意を感じさせた、ペンライト揺れる武道館の光景

太陽神・天照大御神(アマテラスオオミカミ)が須佐之男命(スサノヲノミコト)の暴挙に腹を立て、天岩戸(アマノイワト)と呼ばれる洞窟に身を隠してしまう伝説『天岩戸神話』。
天照大御神を洞窟から引きずり出し、世界に光を取り戻したのが八百万の神々の知恵と天鈿女命(アメノウズメノミコト)の舞だとするならば、陰りある時代に音楽の力で光を射していくのが和楽器バンド、そして、鈴華ゆう子の歌声なのかもしれない。『和楽器バンド 大新年会 2021 日本武道館 2days ~アマノイワト~』を観ていると、そんなことを考えずにはいられなかった。

オープニング映像を経て、ボーカル・鈴華ゆう子の力強い歌声からライブは開幕。キラーチューンの「千本桜」が華やかな桜吹雪と共に、一気に広がっていく。観客が声を出せない状況でも和太鼓の黒流は絶えずフロアを煽り、それにしっかりと応えるように客席のペンライトが揺れた──今年も和楽器バンドは、ファンと共に景色を作っていく。言葉にせずとも、その光景がすべてを物語っていた。

観客は曲に合わせてペンライトを揺らし、バンドと共に“ライブ空間”を作り上げていた

青い照明に導かれ、勢いやまぬまま「reload dead」へ。寸分の狂いもなく絡み合うドラムと和太鼓の打音は、もはや音では収まらぬ圧。一音一音が触れられそうな勢いで、目の前に迫りくる。オンラインでもライブを楽しむことはできるが、振動を肌に感じることができるのは現地ならでは。紛れもなく今生きているという事実が、オーディエンス一人ひとりに刻まれていく。尺八の高音が軽やかに抜けていく「反撃の刃」、ドラム・山葵がスティック投げをサラッと決めた「華火」と熾烈な演奏が展開される。

「オキノタユウ」では、鈴華のアテンドによりスマホのライトで武道館が埋め尽くされた。切なく響くアコースティックギター、モノクロの映像、白い息のように場内を潤すスモーク。幻想的な空気はセンチメンタルを加速させる。会場に煌めく一つひとつの光は、それぞれの命の煌めきを強調し、ステージ上の8人と溶け合うように輝いていた。

しっとりした空気に浸ったのも束の間、「起死回生」で空気はガラッと変化。三三七拍子のリズムとダンサーのパフォーマンスで、一気に武道館の温度を上げていく。“最後の壁は自分で超えるんだよ”という歌詞と共に、ギター&ボーカルの町屋が胸を叩いたのは「日輪」だ。コロナ禍で生まれた一曲ということもあり、言葉のリアリティが凄まじい。箏のソロパートでは、いぶくろ聖志が文化箏の白鷺をキーボードのように担いでプレイ。和太鼓&箏&ドラムの後列3人は動かない、という固定概念を打ち破ってみせた。

文化箏の白鷺を携えステージ前方で演奏する、いぶくろ聖志

1年で8つのニュースを届ける“八奏新報”の第1弾として、4月より放送が決定しているテレビアニメ『MARS RED』のオープニングが新曲「生命のアリア」になることが発表されると会場は拍手で祝福。トレーラーが流れるときには映像が乱れるハプニングも発生したが、そんなときだって楽しんでしまうのが和楽器バンドの8人。

天井近くまでリフトアップされたステージで歌う鈴華ゆう子

尺八の神永大輔が「ファミコンとかだと息を吹きかけたら直ったよね!」と、オーディエンスの笑いを誘った。初披露となった「生命のアリア」では撮影OKタイムとなり、幾多のレンズが向けられた。漏らすことなく一つひとつに視線を送る彼らに、ファンへの多大な愛を感じずにはいられない。つづけて、鈴華の立つステージが天井近くまでリフトアップするという華やかな演出と共に「月下美人」をしっとりと歌い上げ、前半を締め括った。

MCでも観客を湧かせたムードメーカーの神永大輔(左)

「アマノイワト」に込めた想い


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坂井彩花

(さかい・あやか)1991年、群馬県生まれ。ライター、キュレーター。ライブハウス、楽器屋販売員を経験の後、2017年にフリーランスとして独立。『Rolling Stone Japan Web』『Billboard JAPAN』『Real Sound』などで記事を執筆。エンタテインメントとカルチャーが..

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