岡野玲子『両国花錦闘士』はなぜ舞台化されたのか。相撲と演劇に共通する祝祭性

2021.1.9

相撲と演劇はとても似ている

相撲に限らず、競技を演劇で見せることはなかなか難しい。これまで演劇界ではテニスや自転車競技を想像力を存分に駆使した画期的な見せ方で上演してきたといっても、相撲はハードルが高い気がする。何しろ裸である。その肉体をどう再現するのか。

ソップ型は鍛えればなんとかなるのかもしれないが、あんこ型はリスクが高い。体型が合ってかつ役にも合ってかつ演技のできる俳優は存在するのか。長いことほぼ全裸で舞台上に存在することを了承する俳優はどれだけいるだろうか。何より肉体と肉体のぶつかり合いという競技自体をどう見せるのか。生の舞台は映像のように送り手が見せたいものだけ選択して提供できない。観たいところを観放題の舞台での相撲はリスキーではないか。

あんこ型力士・雪乃童に扮する大鶴佐助のコメント動画

でもその、技術のみならず、筋肉質でも太っていても、その極められた肉体を観客に晒すという行為において、相撲と演劇はとても似ている。

問題点はあらゆるアイデアを駆使して巧いことクリアされていた。『両国花錦闘士』に限らず、舞台では、男性の肉体と一挙手一投足を、女性が穴が開くほど見つめているのである。もちろん、合わせて演技力という才能も見るのだが、たくましい上腕二頭筋とか割れた腹筋とかそういうものにときめく感情は、芸術的なだけでなくエッチな感情もあるはず。『anan』で定期的に特集されている、男性を色っぽく撮った企画が人気なのも同じことと思う。

芸能プロ社長・桜子の視線は多くの女性客の本能の象徴である。もちろん社会はまだまだ男性主体で物事が進み、女性が悔し涙に暮れるケースは多いのだが、舞台に限らずメディアで男性が女性に愛でるという名で消費されているように見える場合、男性俳優やタレントはどういう気持ちなのだろう、と筆者は思うことがある。男性は平気なのだろうか。傷ついたりしないものなのだろうか。それこそが男女の違いなのであろうか。

芸能プロ社長・桜子を演じたりょう 舞台写真撮影:田中亜紀

女性だろうと男性だろうと異性の目に晒される職業がある。俳優もそのひとつである。

『両国花錦闘士』 の舞台化が発表され、主演が伊藤健太郎であることがわかったとき、彼はまさに若手俳優として大きな波に乗り、大衆の視線を浴びている最中だった。再放送も盛り上がった『アシガール』、映画もヒットした『今日から俺は!!』、朝ドラ『スカーレット』と知名度が上がって、年々入れ替わっていくイケメン新世代の先頭グループにいた伊藤が、女性に愛され、そのエネルギーを土俵で闘うエネルギーに変換して勝ち抜いていく昇龍を演じたら、虚実皮膜のおもしろさは格別であったことだろう。だがそれは、アクシデントによって実現されることはなかった。

代役を引き受けた原は舞台で活躍する力のある俳優ではあるが、ジャニーズという女性客に夢を与える“アイドル”を職業にする最たる組織の一員である。ジャニーズは無数にいる男子たちの中で、よりキラキラと輝きを放つことができた者が生き残っていく。そのキラキラは、ビジュアルの美しさやパフォーマンスのうまさなどさまざまだが、それは根本的には男としての魅力である。一時はトップランナーになっても、新世代は刻々入れ替わる。才能は数値化されないということはない、ステージに立てば人気は目に見えるし、何かと数字で可視化されるという厳しい世界で、振り落とされず、輝きつづけるために切磋琢磨する。そんなジャニーズと相撲の世界の物語も重ねて見るとおもしろい。

また、原はかつて、新感線☆RS『メタルマクベス』disc2(2018年)で演じたレスポールJr.という役で、「Jr.」とつくだけに次世代を担う王子役を演じたことがある。父王殺害の汚名を着せられ逃亡の果て、民衆を味方につけて復讐に立ち上がるという、まさに正義のキラキラで闇を切り開く存在だった。物語のように血に塗れたドロドロではないとはいえ、芸能の世界は常に下剋上。そんな世界に生きる原は、急遽、代役になったにもかかわらず、昇龍の野心をギラギラとのぼり詰めていくところを堂々と演じていた。

主演を務めた原嘉孝のコメント動画

むしろ、本来、別の役(兄の役だった)を演じる予定だった原が、巡り合わせで今回、舞台の中心に立つことになり、主として自分を観る観客の目を一身に受け、己を奮い立たせていくことには、得も言われぬセクシャリティとリアリティが滲み出たともいえる。リアルといえば、圧倒的に輝くスターがなんらかのきっかけで舞台に立てなくなったとき、代わりが現れるという厳しい世界であるということもまた……。

いずれにしても、舞台の中心を担うスターとは、神あるいは観客への捧げものなのだということが、いい意味で愚直なまでに明確に意識されるように作られた演劇は昨今なかなかないという点においても意欲作と言っていい。

2021年、世界が男女問わず祝祭感であふれますように──


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木俣 冬

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