『呪術廻戦』は血まみれだけど優しいマンガ。有吉弘行やマツコ・デラックスのスタンスに通じる<公平性>がヒットのカギ

2020.12.29
呪術廻戦サムネ

文=さわだ 編集=アライユキコ 


『呪術廻戦』の新しさは、漫画愛に裏打ちされた“既視感”の魅力と、登場人物たちが相手を思いやる“公平性”にあるのでは? 『ジャンプ』大好きライター・さわだが考察。

既視感からオリジナルへ

芥見下々(あくたみ・げげ)作『呪術廻戦』がすごいことになっている。前日譚に当たる0巻を求めて本屋を3軒ほど回ったが、0巻だけじゃなく通常の1~13巻まですべてが売り切れ。熱い熱いとは聞いていたが、まさかこれほどのものとは思っていなかった。いったいなぜそこまで人の心を惹きつけるのだろうか。流行りのダークファンタジー、カッコイイ画、繊細なセリフ回し、アニメのクオリティ、ロジカルなバトルが、休載中の『HUNTER×HUNTER』を思わせる、など理由はたくさんある。
その中でも大きなウエイトを占める“既視感”と“公平性”に注目してみる。

『呪術廻戦』<0巻>芥見下々/集英社
『呪術廻戦』<0巻>芥見下々/集英社

『呪術廻戦』は、強力な“呪物”を取り込んでしまった高校生・虎杖悠仁が呪術高等専門学校に入学し、人間の負の感情から生まれる呪霊(呪い)と闘うダークファンタジー。『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中。

小説版の原作者紹介に“日本三大既視感作品との呼び声高い”とある。『呪術廻戦』は『HUNTER×HUNTER』『幽☆遊☆白書』『BLEACH』『NARUTO』──『ジャンプ』漫画を中心にさまざまな作品から影響を受けているのが見て取れるが、作者本人はそのほとんどを公表している。既視感とはネガティブにも取られがちだが、真意は自虐風の“ジャンプ大好き宣言”だ。「僕これ好きなんだけどみんなもコレ好きでしょ?」の感覚だ。

しかし、「いくらおもしろいところを寄せ集めても、おもしろくなるとは限らない」みたいなことは、『バクマン。』でも言われている。新人漫画家には多い傾向で、オリジナリティがなくなってしまうということだろう。その点、『呪術廻戦』は、既視感とオリジナルのバランスが絶妙だ。むしろ、既視感を利用してオリジナルを生かしているフシさえある。

たとえば、主人公・虎杖悠仁が一級呪術師・七海建人と手を組み、人の命を弄ぶ呪詛師・真人と闘うシーンだ(4巻29話)。真人は天敵である虎杖を封じるため、改造人間を差し向ける。罪のない人間を盾に正義側を追い込む悪役は、さまざまなマンガでリアルに30回くらい見てきた。殺すことができない歴代の主人公たちは、敵にボコられながら自分の正義をまっとうする。キャラクター性が前面に出て、名シーンになりやすいシチュエーションだ。

『呪術廻戦』<4巻>芥見下々/集英社
『呪術廻戦』<4巻>芥見下々/集英社

しかし、虎杖はちょっと違う。「あ、そぼ、、、」と改造人間に話しかけられるも、葛藤したのはたったのひとコマかふたコマ。あっさりと改造人間を殺す。殺しの瞬間は描写されず、切り替わった真人視点で、虎杖がものすごい形相で飛びかかってくる。そして戦闘終了後、虎杖は「俺は今日人を殺したよ」と改めて人の死に思いを馳せる(4巻31話)。緊迫したバトルのテンポは損なわずに、「人の死に方」を落ち着いて考えるのだ。こうやって既視感のある展開から着地点や見せ方をズラしてインパクトを残す。過去作のおもしろさにあやかりながら、それを利用してオリジナリティを作っているのだ。

ハードルを下げるのが抜群にうまい


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