ラスボスを上回った主人公の狂気
すべてはチェンソーマンを我が物にしようとする支配の悪魔・マキマの企み、何もかも手のひらの上。あからさまに怪しく作者も隠すつもりもなかったようだが、まさか第1話の「食パンにバターとジャム塗って」からとは思わなかった。チェンソーマンになる前のデンジとポチタ、ふたりだけの会話を盗盗み聞きしていた──つまりポチタの存在を知っていたのだ。
ある人物の「マキマは下等生物の耳を借りる」というセリフを読んでから遡ると、要所要所にカラスやネズミがいるわいるわ。そして9巻の衝撃だった「銃の悪魔が虐殺した死者の名前が数ページにわたる」もただのビックリ演出ではない。のちにマキマは「私への攻撃は適当な日本国民の病気や事故に変換されます」と告白しており、つまり全国民を殺してからでないと命を奪えない。裏返せば、マキマも銃の悪魔対策をしていたわけだ。
すべて計算づくのマキマだが、とりわけ悪質なのはデンジとポチタの契約を解除させようとしたことだ。デンジの夢は「普通に暮らすこと」だが、どん底の生活をしていたデンジに絶望させるのはとても難しい。そこでタップリと幸せにしたあとに、その幸福のすべてを奪い去ることにした……9巻までの物語は、全部そのための仕込みだった!
さらに最大の陰謀は「チェンソーマンを国民的ヒーローにしたこと」だった。普通のヒーロー漫画なら人々からの応援は主人公の力となる。でも、この世界は「恐れられる悪魔ほど強い」。つまり声援を送られて頼りにされるほどチェンソーマンは弱くなる……「少年ジャンプの法則」をハッキングしたラスボスは初めて見ましたよ。
ここまではすべて理詰め。最後のバトルも、デンジが珍しく頭を使って哀しい勝利をした。が、攻撃は一切通じないマキマをどうやって殺すか? それは「愛」だった。デンジがマキマさんとひとつになるための、肉と玉ねぎの生姜焼き。マキマさんってこんな味かぁ……。
そして最終回のハンバーグやモツ味噌煮込み、肉だけカレーなど肉料理のフルコースで埋め尽くされたカラーページにつづく。あんな目に遭わされてもマキマさんが好きで、いろいろ料理して完食満腹。とてもイイ話のように装われてはいるが、「ネジがぶっ飛んでるヤツほど強い」のルールは微塵も揺らいでいない。
これだけ狂ったことをしながら、最終回の読後感はとても爽やかだ。やはり作者の藤本タツキ氏は天才、いやマンガの悪魔……? ジャンプ本誌よりも制約がユルい古巣の『ジャンプ+』に戻るという『チェンソーマン』第2部で、どんな新たな地獄を見せてくれるのか楽しみでたまらない!
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