【ライブレポート】『和楽器バンド JAPAN TOUR 2020 TOKYO SINGING』で鳴り響いた“希望の音楽”

2020.12.7

“I’m singin’ for you and me…”と歌う和楽器バンドが放つ希望

いよいよライブもラストスパート。今回のライブでは「日輪」が撮影OKということで、オーディエンスは一斉にスマホを構えた。ファンの期待に応えるべく、縦横無尽にステージを動き回るメンバー。上手の端まで駆けつける亜沙に一人ひとりへ視線を送る町屋、楽器が固定されているため動けない黒流、いぶくろ、山葵も動画映えするパワフルなパフォーマンスを見せた。

鈴華が深くブレスを吸うと、最終章へ向かう架け橋となる「Eclipse」へ。節調(せっちょう:詩吟特有の歌い回し)の利いた歌い方は、まさしく鈴華の真骨頂。しっとりと妖艶に観客を惹きつけていく。そして彼女はこう唱えた。「本来であれば、みんなで声を重ね合って歌いたいという想いの曲を、最後に歌いたいと思います」と。

ガーデンシアター全体に鈴華ゆう子の歌が響き渡っていた

町屋が規則的なフレーズを刻み、ラストナンバーである「Singin’ for…」が導かれる。闇が浄化されていくようなブライトなサウンド、ひとりじゃないと感じさせてくれる壮大な歌唱、今だけがすべてじゃないと思わせてくれる歌詞。そこにあったすべてが“希望”を音楽にしたものだった。尺八、津軽三味線、ギターとつながれていくソロも、誰かの想いは途切れることなくつながれていくのだ、そう物語っているかのようだった。

アルバム『TOKYO SINGING』は、一変した世界へ向けてTOKYOから今を届ける作品だ。それと同時に、何年か経ったときに“あの日のTOKYO”としてベンチマークしてくれる作品でもある。変わってしまった世界に再び安寧を取り戻すまで、和楽器バンドはきっと私たちのそばにいてくれる。“I’m singin’ for you and me…”という高らかな宣言を残し、本編を締め括った。

メンバーが去ったあとも鳴りやむことのない拍手は早まることもなく一定で、ひとつの曲を観客のそれぞれが共有しているかのよう。スクリーンに再び命が宿ると、『和楽器バンド 真夏の大新年会 2020 横浜アリーナ ~天球の架け橋~』につづき、ファンの皆さんから募った映像で作った「暁ノ糸」のアンコールムービーが流された。

ツアーでは恒例の亜沙カメ君のコーナーや「たる募金プロジェクト」の紹介を挟み、ライブはついにエピローグへ。ノリのいいロックチューンの「ロキ」、和楽器バンドの代名詞である「千本桜」を披露し、大団円のライブをやり遂げたのだ。

ここ日本でも再び新型コロナウイルスの感染者が増え始めた今、なんの迷いもなく「ライブへ行こう」とアナウンスすることは難しい。家でオンラインライブを楽しむことも、間違いなく正解のひとつだ。そうだとしても、こんな状況だからこそ見える景色も、聴こえる音も、あの空間には存在していたと断言したい。シンガロングがこんなにも恋しいこと、生のライブだからこそ得られる感動がたくさんあること、“I’m singin’ for you and me…”と歌う和楽器バンドがこれほどまでに心強いこと。

まだまだ息苦しい毎日はつづいていくが、きっと絶望すべきではない。和楽器バンドは、「希望を持って生きていこう」とパワーを分けてくれたのだから。マスクを外し、みんなで声を出しながら拳を突き上げる未来を、8人と一緒に待ちたいと思う。

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