【ライブレポート】『和楽器バンド JAPAN TOUR 2020 TOKYO SINGING』で鳴り響いた“希望の音楽”

2020.12.7

文=坂井彩花 写真=KEIKO TANABE、上溝恭⾹
編集=森田真規


約2年半ぶりのオリジナルアルバム『TOKYO SINGING』を2020年10月にリリースし、そのアルバムタイトルを冠した東名阪アリーナツアー『和楽器バンド JAPAN TOUR 2020 TOKYO SINGING』を10月から11月にかけて行った和楽器バンド。

『TOKYO SINGING』リリース時に実施したQJWebのインタビューで、リーダーでボーカルの鈴華ゆう子はこのツアーに向けてこう話していた。

「手拍子だけとか、人と人との空間を空けるとか、この先もあるかもしれない。そんな環境のなかで、コロナ自粛中にできた曲を全身で浴びるのって、本当に刹那的だし、今しか味わえないこと」

ここでは、10月25日に東京・ガーデンシアターで行われたライブレポートをお届けします。和楽器バンドの8人がライブで放っていたポジティブなパワーの一端に、ぜひ触れてほしい。


“どうか響け”という8人の想いが会場を埋め尽くす

10月25日、ガーデンシアターには希望が鳴っていた。華やかで生命力にあふれた楽器演奏、パワフルでまっすぐなボーカル、そして言葉なくとも一緒にライブを作るオーディエンス。「こんな日があるのなら、コロナだって超えてみせよう」と会場にいたすべての人が感じたことだろう。和楽器バンドが『和楽器バンド JAPAN TOUR 2020 TOKYO SINGING』で創り出したのは、今の時代における最善であり最高だ。

ライブのテーマは、コロナ禍に制作された『TOKYO SINGING』の完全再現。全メンバーが直接そろってのレコーディングは一度もなく作られたアルバムを、約2週間でまんまとライブパフォーマンスに昇華して見せたのである。

ソーシャルディスタンスを確保し、検温を実施するなど感染症予防策は万全。声援禁止のため観客全員に応援用のハリセンが配られた

「Overture~TOKYO SINGING~」に引き連れられ、東京の随所を映したムービーによりライブはスタート。幕開けと共に鈴華ゆう子の声が突き抜け、「Calling」が一気に広がっていった。腹の底に響く楽器の音が「生きている」ということを実感させる。オーディエンスを煽る黒流や神永大輔の姿が、「楽しんでいいんだ」と観客を安心させる。“どうか響け、どうか響け”という彼らの想いは、一瞬にして会場全体に広まっていった。

鈴華が「今日も拳と手拍子でひとつになっていくぞ! よろしく!」と煽ると、間髪開けず「Ignite」へ。凄まじいレーザービームがアリーナを射抜き、熱量を具現化したような炎が燃え上がる。町屋がクールなタッピングを披露したかと思えば、亜沙は地べたを這い暴れるようなフレージングで応戦。ロックバンドとしての力量を、これでもかと魅せつけていく。

勢いはそのまま「reload dead」に引き継がれ、山葵のドラムが空気をガラッと変えた。蜷川べにが津軽三味線で軽やかに踊り、いぶくろ聖志の箏は繊細に曲へ華を添える。何度もやってくるキメも寸分違わずズレることはなく、彼らの実力の高さを物語っていた。

尺八と箏の美しいソリにより導かれたのは「生きとしいける花」だ。これぞバラードという曲調には、鈴華の伸びやかな声がよく映える。蜃気楼に揺れる草原のように、観客の手が左右に揺らいだ。抒情的に和を聴かせる「月下美人」では豊潤なビブラートを響かせ、アグレッシブな「Sakura Rising with Amy Lee of EVANESCENCE」では撮り下ろし映像でAmy Leeとコラボ。1曲ごとに見せたい世界を、丁寧に展開していく。

神永と町屋が怪しげなセッションを奏で、黒流がフィンガーシンバルを鳴らすと空気は豹変。和の空間から急激にロックへと加速、「ゲルニカ」につながれた。スクリーンに映し出されるエレクトリックな色彩や暴走する数字は、“新たな世界線”を彷彿とさせる。ズカズカと転がっていくリズムの心地よさは、ライブだからこそ味わえる感覚のひとつと言って間違いないだろう。8人の熱にほだされ、体が自然と前のめりになっていった。MCを挟み、少人数ユニットでパフォーマンスをするパートに突入。神永と黒流の「刹那」を筆頭に、「生きかけた夢のあとがき」「塵旋風」「焔」とつづいていった。

亜沙(左)と町屋。メンバーはステージを駆け巡って観客を盛り上げていた

「Tokyo Sensation」から再び『TOKYO SINGING』の楽曲へカムバックすると、ポップなサウンドとキャッチーな演奏で観客を躍らせていく。折り返しを過ぎたからなのか、メンバーもどこかリラックスした雰囲気。町屋と亜沙が向き合って演奏したり、蜷川が下手側まで歩いて来たりと、それぞれが純粋に楽しんでいる様子が窺える。

ブライトな空気は、かげることなく「オリガミイズム」へと引き継がれた。背景を彩る色とりどりのオリガミやカラフルな照明は、何にでも変われることや染まれることを感じさせ、明るい未来を予期するかのようだ。曲中のクラップをするところでは、練習をしたかのようなシンクロ率で手拍子が響いた。

「オリガミイズム」を演奏する神永大輔(左)、蜷川べに(中央)、町屋

怪しげに響く箏と、鈴華のセリフが連れてきたのは「宛名のない手紙」だ。8人が一身にスポットライトを浴びるさまは孤独感をより一層強調し、楽曲をさらに深いものへと演出する。言葉が降り積もるというのは、こういうことを言うのだろう。静かに厚さを増す雪のように、鈴華の歌声が一つひとつ胸中を埋めていった。

このままバンド演奏がつづくかと思われたが、エレクトリックなSEにより場面は一変。ライブではおなじみとなっている「ドラム和太鼓バトル~響映轟弾・改~」につながれた。山葵が手足を組み合わせたパワフルなコンビネーションを披露したかと思えば、黒流は複数打ちを駆使したロールで魅せる。と思いきや、突然、黒流が猫耳のついたフードを被り「くろにゃだよ♡」とおちゃらけて見せると、山葵が「仕込むんだったら先に言ってよ!」と本気のツッコミを繰り出していた。こんなやりとりが観られるのも、生のライブならではの楽しさと言えるだろう。

“I’m singin’ for you and me…”と歌う和楽器バンドが放つ希望


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坂井彩花

(さかい・あやか)1991年、群馬県生まれ。ライター、キュレーター。ライブハウス、楽器屋販売員を経験の後、2017年にフリーランスとして独立。『Rolling Stone Japan Web』『Billboard JAPAN』『Real Sound』などで記事を執筆。エンタテインメントとカルチャーが..

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