VTuber出雲霞の「卒業」を考察。「出雲霞」を愛した「出雲霞」は、引き伸ばすことを選ばなかった

2020.11.8

視聴者との共犯創作スタイル

出雲霞は「キャラクター」の語を大事にしていた。活動中はいわゆる「本人の人格」のアバターと「キャラクター」の中間的扱い。そのためある程度の「半ナマモノ」としての線引きはあった(例・二次創作で恋愛ものは見えないところでやってほしい、など)。しかし、これからはまったく変わることを説明している。

「これからはある種、みなさんの中からは消えないけどみなさんの前からは消えるので、好きなようにしてもらえればなと思います」「出雲霞はこれからはナマモノではなくて、完全にアニメとかのキャラクターと同じ扱いになります」

『p.s.出雲霞を愛する人たちへ』

卒業後、受け取り手はキャラクターを「コンテンツ」として自由気ままに手に取り、遊ぶことができる。「本人またはアクターがいる」「メタ的な話はできない」という気兼ねが一切いらなくなることで、物語のキャラクターとして純化された。

「私、のらきゃっとさんの大ファンなんです」「VTuberをしている方とVTuberを手法として使って創作なさっている方がいらっしゃる。VTuberで「本当にその子が存在しているんだ」ってわかる方がすごく好きです」

『Vティーク vol.4』「にじさんじクリエイターズディスカッション」
『Vティーク vol.4』KADOKAWA
『Vティーク vol.4』KADOKAWA

卒業することで完結したVTuberは出雲霞が初なわけではない。カフェ野ゾンビ子や薬袋カルテなどは、創作表現のためにVTuber形式を選択し、しっかり完結させたのち、活動を停止している。

出雲霞に影響を受けたことを明言するVTuberのひとりに、「にじさんじ」黛灰がいる。物語をベースにしつつ普段はエンタメ。突然物語の本筋が飛び込んでくることもあるし、のちのち意外な伏線として過去の普通の配信の一部が回収されることもある。視聴者とライバーたちを巻き込んだ物語の演出はとても凝っており、VTuberという存在の意義についても踏み込んでいるため、業界での注目度はかなり高い。

視聴者との距離が極端に近いVTuberは、ディープに巻き込んでいく共犯創作スタイルが生まれやすい。出雲霞のようにVTuberという無限の可能性を秘めた体験型メディアが育っていることを知ってもらえれば、演劇や映画などにも大きな自由度が広がるはずだ。

この記事の画像(全3枚)




関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

動く城のフィオサムネ

VTuber「動く城のフィオ」の生存戦略。現実で生きていくのが難しいなら、こっち<VR空間>で生きていこうよ

バーチャル・シンガーサムネ

memex、MonsterZ MATE、樋口楓……本当に音楽がすごいVTuber12組を紹介、バーチャルの優位性を考察

VTUVER

VTuberとは「人形浄瑠璃」あるいは「枯山水」である説

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」