「今は防備の時」と30年前、色川武大(阿佐田哲也)は書いた。2020年の今は?「ドシーン」と何かが起こる前に

2020.9.30


色川武大が言う「ドシーン」はいつ来てもおかしくない

色川武大の「ババを握りしめないで」には次のような文章もある。

土地だけじゃない。企業がそうだ。企業なんてものはまず第一にイメージ戦争なのだ。株価はイメージによる思惑にすぎない。ここでもババ抜きゲームがおこなわれている。

色川武大「ババを握りしめないで」

繰り返すが、このエッセイは1987年の話である。

土地や株などが、ある日突然、ババになり、それを握りしめたまま、置き去りにされてしまう人々が続出するのではないか。4年後、色川武大の予想はその通りになった。

天災であれ、経済変動であれ、どうやって身を処したらいいかわからないが、とにかく、私に投票させれば、今は防備の時、という方に賭けるだろう。

色川武大「ババを握りしめないで」

ギャンブラーの感覚で「今は防備の時」と唱えた色川武大は1989年3月に岩手県一関市に引っ越し、翌月の4月10日に亡くなる。享年60。一関に移住したのは最近映画にもなったジャズ喫茶ベイシーがあったからと言われている。本人は50歳前後から、自らの死期は60歳前後だと予期するようなことを何度となく書いていた。

色川武大が亡くなって三十余年。

かつて栄えていたと思われる全国各地の商店街がシャッター街化している。地方に行くと、横断歩道が消えかかっていたり、舗装がガタガタになっていたりする道はいくらでもある。ローカル線もどんどん廃線になり、病院が潰れ、日常の買物すらままならない地域も珍しくない。高度経済成長期に林立した団地やバブル期に建てられたリゾートマンションも徐々に廃墟化している。

電気、ガス、水道などのインフラの老朽化もこの先の政治の大きな課題だろう。
株価や不動産価格だって、どうなるかわからない状況にある。

色川武大が言うところの「ドシーン」はいつ来てもおかしくない。日本だけでなく、アメリカや中国も危うい状況にある。

『ばれてもともと』(文藝春秋/1989年)に「年を忘れたカナリアの唄」というエッセイがある(『いずれ我が身も』にも収録)。色川武大は「これがいいとかわるいとかの判断」を身体にまかせるのが常だった。

『ばれてもともと』色川武大/文藝春秋/1989年

まず身体を動かしていく。運次第のようなところもあるけれど、身体の欲するところが、自分の欲する方角だと思う。失敗したらそれまでだ。

色川武大「年を忘れたカナリアの唄」

初出は『新潮45』(新潮社)1989年2月号。最晩年の原稿である。

おそらく「自分の欲する方角」を決めるのは理屈ではない。わたしも「身体の欲するところ」に従う傾向がある。足の向くままに散歩し、疲れたら休む。何もしたくないときはひたすらゴロゴロして過ごす。ガマンすると勘が鈍る。忍耐強くなるにつれ、自分にとってイヤなことがわからなくなる。それが怖い。というのは、怠けるための言い訳か。

30年以上前に色川武大は「今は防備の時」と言ったが、わたしも2020年秋の今そんな気がしている。

■荻原魚雷「半隠居遅報」は毎月1回更新予定です。


この記事の画像(全3枚)



  • 荻原魚雷『中年の本棚』(紀伊國屋書店)

    気力・体力・好奇心の衰え、老いの徴候、板ばさみの人間関係、残り時間…人は誰でも初めて中年になる。この先、いったい何ができるのか―中年を生き延びるために。“中年の大先輩”と“新中年”に教えを乞う読書エッセイ。

    関連リンク


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

荻原魚雷

(おぎはら・ぎょらい)1969年三重県鈴鹿市生まれ。1989年からライターとして書評やコラムを執筆。著書に『本と怠け者』(ちくま文庫)、『閑な読書人』(晶文社)、『古書古書話』(本の雑誌社)、編著に『吉行淳之介 ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)、梅崎春生『怠惰の美徳』(中公文庫)などがある。毎日新聞..

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太