是枝監督や三宅唱、chelmicoらが絶賛!圧倒的な「青春のリアル」を生み出した映画『アボカドの固さ』とは?
PFFアワード2019で「ひかりTV賞」を受賞し、第20回TAMA NEW WAVEでは「ある視点」部門に入選し、海外の映画祭にも出品されるなど、公開前から話題を呼んでいる映画『アボカドの固さ』が2020年9月19日に渋谷ユーロスペースで封切られた。
監督を務めるのは、本作が長編デビューとなる城真也。是枝裕和や三宅唱のもとで映画製作を学んだ1993年生まれの俊英だ。主演と脚本を務めるのは、玉田真也監督作『僕の好きな女の子』や今泉力哉監督作『街の上で』(2021年春公開)など注目作への出演がつづく1992年生まれの前原瑞樹。さらに主題歌をTaiko Super Kicksが、音楽をD.A.N.の櫻木大悟が担当している。
そんな1990年代前半生まれの製作チームが作り上げたこの映画には、圧倒的な「青春のリアル」と不思議な豊かさが閉じ込められている。シーンの最前線に立っている「すごい人たち」がイチオシする『アボカドの固さ』、ぜひあなたの目でチェックしてみてほしい。
なんとも言えない絶妙な角度から、ちょっと揺さぶりをかけてくる
新進の映画監督、城真也が撮った『アボカドの固さ』が、自主映画ながらも少しずつ話題になり始めている。主演の前原瑞樹が実際に体験した失恋をもとにしたこの映画を彩るのは、演出、映像、音楽などにおける冴えた挑戦と冒険だ。
『アボカドの固さ』がおもしろいのは、失恋までの過程ではなく、失恋後のどうにもならない日々、ゆったりと流れていく鬱屈とした時間を、ユーモアと共に描いているところである。
前原が前原自身を演じる、という虚構と現実の狭間をいく前提もこの映画に奇妙なリアリティをもたらしていて、だからこそ観た者は共感性羞恥とでもいうような、いたたまれなさを覚えてしまうはず。そして、それが『アボカドの固さ』の表現の前提にもなっている。
そんな『アボカドの固さ』のオフィシャルサイトを見てみると、多くのコメントが寄せられている。数えてみると、なんと25人。しかも、それぞれシーンの最前線に立っている「すごい人たち」ばかりだ。
たとえば、映画監督では監督の城真也が薫陶を受けた「師匠」の是枝裕和と三宅唱や、冨永昌敬ら。ミュージシャンではchelmicoのふたり。アートの世界からはヴィヴィアン佐藤。文芸においては山崎ナオコーラや俵万智(本作は俵の歌から着想を得ている)。さらに俳優のMEGUMIなどなど。日本のインディペンデント映画としては異例と言っていいだろう。しかも城にとって、これがまだ長編第1作目なのだ。
複数の視点から綴られた短文は、そのまま映画と観客の関係性のように感じる。『アボカドの固さ』へのコメントがずらっと並んだページは、まるで映画館の客席みたいなのだ。だからこそ、そこにはシンクロした言葉もあれば、相反するものもある。
たとえば、是枝の「真っ当な青春映画」と「青春のリアル」という着眼点は、冨永の「すごい実録の実験だ」や占い師の高橋桐矢の「リアルすぎ。これ、演技?/ドキュメンタリーじゃないの?」という言葉と共振している。かと思えば、『息を殺して』(2014年)などで知られる映画監督の五十嵐耕平は「共感やリアルさではなくて、反発や拒絶、フィクションがこの映画の登場人物を救っている」と、正反対のことを書く。
「リアル」という点で言えば、物語への共感や「リアルすぎてキツい」というものも多い。
「いる、いるよなあ。こういうやつ」(藤井道人)。「それ見たことある。あーもう見たくない」(吉田貴司)。「前原くんが(中略)ホモソーシャルなノリをかますたび、お前なんかしみちゃんに振られて当然だ!と冷めた目で見ていた」(山中瑶子)。「押し寄せてくるリアリティがすごくて、大笑いしながら観ました」(山崎ナオコーラ)。「それが役者って仕事なんだなぁ」(MEGUMI)。
それだけ『アボカドの固さ』に宿ったリアリティとエモーションは、観る者になんとも言えない絶妙な角度から、ちょっと揺さぶりをかけてくる。
活躍する場も、世代も、書いていることもばらばらな25人の並びを見ながら、城監督や前原を中心とした製作チームの交友(と書くとちょっといやらしいが)の輪の広さを感じる。しかし、もちろんそれだけではなく、駆け出しの監督が撮った作品にこれだけの人々が言葉を寄せているのは映画が包含するテーマの射程の長さゆえだし、それ以上に映画として愛されているから、なのだろう。
というわけで、『アボカドの固さ』はなんだかただならない、けれど愛らしい映画なのだ。
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