『鬼滅の刃』炭治郎「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」を真剣に考察したい


仲間を感化して力を引き出す「長男力」

鬼殺隊の強さは組織の強さであり、一人ひとりの力が合わさって合計以上の力を発揮するワンフォーオールにこそある。「長男力」は、それをじゅうぶんに引き出すテコとしても大活躍している。

炭治郎は人と人との間にある壁をまったく意識せず、ATフィールドないにもほどがあるだろという踏み込み方をする。しかし無神経ではなく、相手に美点があれば素直に褒め、じゅうぶんに活かされていない長所があれば惜しいと思って励ます。人間関係の上下にこだわらない人はたまにいるが、そもそも炭治郎には「上下」という概念がない。我慢だのメンツだのを超越してみんなの幸せを望む「長男力」ゆえだろう。

その「長男力」を最も浴びているのが、鬼殺隊の同期である伊之助だ。本格的な関わりは「伊之助が禰豆子を鬼だと知って殺そうとする」という最悪のシチュエーションだったが、その殴り合いの中で身体の柔軟さを自慢する伊之助に「骨を痛めてる時はやめておけ 悪化するぞ!!」と思いやる炭治郎。その後も殺された被害者を埋めるのを嫌がる伊之助に「傷が痛むからできないんだな?」と無自覚に煽る優しさが最高だ。

宿でご飯のおかずを横取りされても腹減ってるんだなと許し、那田蜘蛛山の戦いでも「伊之助も一緒に来ると言ってくれて心強かった」と素直に感謝する。そうして唯我独尊で猪突猛進だった伊之助がホワホワしてきて、鬼を攻略する上で「こいつは自分が前に出ることではなく戦いの全体の流れを見ているんだ」と悟って指示に従うようになった。野生児さえ精神的に成長させるホワホワの長男力、恐るべし。

炭治郎の長男力は性別にかかわらず振りまかれるため、機能回復訓練のため蝶屋敷に滞在したときはエラいことになっていた。年下の看護少女3人は「妹」的なポジションのためかイチコロ、自分で何も決められないからとコインを投げて表・裏で行動を決めていた栗花落カナヲには「この世にどうでもいいことなんて無いと思うよ」と言って「カナヲがこれから自分の心の声をよく聞くこと」を賭けてコインを天高く放った。恋愛フラグが轟音を立てて地面に落下してきた凄まじいシーンでした……。

『鬼滅の刃』<6巻>吾峠呼世晴/集英社
蝶屋敷ではエラいことに……。『鬼滅の刃』<6巻>吾峠呼世晴/集英社

10月に公開予定の劇場版『鬼滅の刃』無限列車編でも、実はこの長男力が絶望的な事態を打開する勝利のカギとなる。テレビアニメ版だけでなく、映像では拾い切れていない細部まで確認できる原作コミックも買って、予習復習に務めていただきたいところだ。

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多根清史著書

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多根清史

(たね・きよし)1967年、大阪市生まれ。京都大学法学部修士課程卒。著書に『ガンダムと日本人』『教養としてのゲーム史』、共著に『超クソゲー2』『超ファミコン』など。ゲームやアニメ、マンガからスマートフォンまで手がける雑食系ライター。

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